神殺しのクロノスタシスⅣ

「ちなみに、ですが…ジュリスさん」

シュニィが、ジュリスに向かって尋ねた。

「何だ?」

「ジュリスさんは、ご存知ではなかったんですよね?賢者の石について…」

「あぁ。少なくとも、俺は聞いたことがない」

…成程。

まぁ、だからこそ…最初にジュリスも、シルナに話を聞きに来たんだろうからな。

同じ時代を生きてはいたが、ジュリスは賢者の石について知らない…。

「…それもそうだろうね。賢者の石は、イーニシュフェルトの里でも、かなり厳重に秘密が守られていたし…。里の中でも知らない人は大勢いたよ」

かなり内密に作られ、内密に保管されていたものらしいな。

まぁ、魔法を封じる道具なんて、魔導師にとっては致命的だもんな。

いかにイーニシュフェルトの里と言えど、賢者の石を悪用しようとする者が現れたら。

きっと、今回のように大きな騒ぎになったはずだ。

取り扱いが慎重になるのも、無理はない。

なら作るなよ、って話だが…。そうも行かなかったんだろう。イーニシュフェルトの里の、頭の堅い長老達にとっては。

「だから、ジュリス君が知らないのも無理はない。イーニシュフェルトの里の中では、賢者の石の他にも、様々な魔法道具を作っていたんだ。賢者の石は、そのうちの一つでしかないんだ」

マジかよ。

「じゃあ、賢者の石の他にも、色んな危険な道具が眠ってるってことか?」

「そうだね。だけど…それぞれの魔法道具は、厳重に封印してある。そして、賢者の石は別格だったよ」

別格?

「シルナ、別格って…?」

「言葉の通りだよ。賢者の石だけは、他の魔法道具の比じゃないくらい、厳重に保管されてた」

…そうなのか。

「だからこそ、今日に至るまで誰も、賢者の石には辿り着けなかった」

「でも学院長先生は、いつか賢者の石の封印が解かれることを見据えて、流言を流していたんですよね?」

「そうだね」

あぁ…。

賢者の石を、魔封じの石だと言い換え。

完全に魔法を封じることが出来る力を持つ、という噂を流した。

その噂を嗅ぎ付けて、万が一賢者の石の封印を解いて、悪事を働こうとした者の裏をかく為に。

今回は、見事にそれがぶっ刺さり。

俺達魔導師を閉じ込める為の異次元世界を、あっさり壊された。

『サンクチュアリ』の目論見は崩れ、見事にシルナの手のひらの上で踊らされた訳だ。

ざまぁない連中だ。