神殺しのクロノスタシスⅣ

…また天井裏にいるのかと思ったら。

まさかの、床下だった。

学院長室の床下って、身を隠すようなスペースはないはずなんだが?
 
何処に、どうやって潜んでたんだ?お前は。

で、やっぱり案の定、いたな。

ワンチャンいないかも、と期待してなくもなかったのだが…案の定いやがった。

「令月。すぐりは何処だ?」

と、俺が聞くと。

「…ぴゃうっ!?」

シルナの膝の辺りに、しゅるしゅるしゅる、と透明な糸が絡みついた。

そして、その糸を手繰るようにして、もう一人黒装束の男が床下から生えた。

誰あろう、同じく元暗殺者の花曇すぐりである。

どうやら、二人仲良く床下に潜んでいたらしい。

…この野郎共…。

「ここにいるよー」

いるよーじゃねぇよ。

いるなよ。

二人して、シルナを支柱代わりに使うんじゃない。

見てみろ、シルナがビビり散らして、氷の石像みたいになってるじゃないか。

「僕達も参加して良いの?」

再度首を傾げる令月に、俺は思わず、

「…駄目だ、って言ったら?」

と言ってしまった。

すると。

「じゃあ、やっぱり床下で聞いてるよ」

待て。床下に帰ろうとするな。

居場所が割れてるのに、そこに戻って良いのかよ。

「嘘だよ。良いから出てこい」

「いーの?俺達が聞いてても」

許可しなくても、お前ら盗み聞きする気満々だったじゃん。

どうせ聞くんなら、窮屈な床下じゃなくて、この部屋で堂々と聞けよ。

「あぁ。良いから出てこい。いちいち何処かに潜むんじゃない」

「だって、大人達がズルくてさー。いっつも俺達が聞いてないところで、こそこそ会話するもんだから」
 
俺たちが話してるときに、こそこそ盗み聞きしてる奴が言うんじゃねぇ。

それから。

「あ、あの。学院長先生…。大丈夫ですか?」

「…」

シュニィが、心配して声をかけるも。

シルナは、突然床下から生えてきた腕に足を掴まれ、びっくりしたまま固まっていた。

「…別にこのパンダがいようといまいと構いませんが、今回はこのパンダがいないと、会議が始まりませんからね」

イレースが、辛辣な言葉を吐き。

「…雷魔法で電気ショックを与えれば、正気に戻るでしょう」

キラリと鋭く光る眼光で、杖を手に取ると。

シルナは、自分の身に迫る命の危機を察知したらしく。

「はっ!?私は何処?ここは誰!?」

あ、生き返った。

変なこと言ってはいるが、一応意識を取り戻したな。

「…ちっ」

電気ショックを与え損ねたイレースは、何故かちょっと残念そうだった。

多分、あわよくばこの機に、日頃の鬱憤を晴らそうとしたのだろう。

危なかったな、シルナ。

電気ショックどころか、昇天しかねないところだったぞ。