神殺しのクロノスタシスⅣ

さて。

小一時間ほどたって、学院長先生は回復した。

お口直しと言わんばかりに、チョコレートを貪っていて安心した。

良かったです。学院長先生、無事で。

「はー、死ぬかと思った…。…全くもう!二人共、あんな悪戯しちゃ駄目だっていつも、」

改めて、実行犯に説教をしようとした…そのときには。

部屋の中に、令月さんとすぐりさんはいなくなっていて。

開けっ放しの窓から入ってくる風で、カーテンがはらはらと揺れていた。

い、いつの間に…?

ついさっきまで、そこにいたはずでは…。

「逃げ足だけは速いんですよ、二人共」

と、イレースさんが説明してくれた。

「そ、そうなんですか…」

やるだけやったら、即撤退。

さすが元暗殺者、とは思いますが…私、彼らからも異次元世界の話、聞きたかったんですが…。

いなくなっちゃいましたね…。

「ナジュ、お前が計画の立案者なんだろ?」

「え?はい」

「少しは悪びれろよ…」

全く悪びれずに、一緒にチョコレートにぱくついてますもんね。

悪戯もここまで堂々とやられると、何も言えなくなると言いますか…。

いえ、私はちゃんと叱りますよ。自分の子なら。

「全く…来客の前で、みっともない姿を見せて…」

イレースさんは紅茶のティーカップを手に、はぁ、と溜め息をついた。

「済みませんね、見苦しい様をお見せして…」

「あ、いえそんな…」

慌てて否定しようと思ったけれど。

…ちょっと、否定するのに抵抗を覚えました。

すると。

「いやぁ、下手に取り繕うより、これくらいいつもの、馬鹿馬鹿しくも平和な日常を見せた方が…今の彼女には効果的なのでは?」

ナジュさんがそう言い、私はその言葉にドキリとさせられた。

何でそんなことを…と思ったが。

そうか、ナジュさんの読心魔法…。

…まさか。

「私の心を読んで…わざわざこんな芝居を…?」

「え?いや、半分は普通に面白いからやっただけですけど」

あ、そうなんですか。

でも、半分は…私を元気づける為、だったんですね。