神殺しのクロノスタシスⅣ

「馬鹿!汚ぇ!」

羽久さんは毒づいていましたし。

「…」

イレースさんは、汚れたテーブルを見て眉間に皺を寄せていましたが。

今は、それどころではありません。

学院長先生は。学院長先生は無事ですか。 

「学院長先生!大丈夫ですか!?」

「ふにゃは©ρ⊄∶〈"↻ー〈¿≪ρ」

最早、人語を喋っていません。

み、水に噎せたんでしょうか?それにしては…。

「あはは。作戦その2まで、完璧に決まったね」

「うん、さすが『八千歳』の糸魔法。すり替える瞬間が全然見えなかったよ」

「でしょー?」

と、楽しそうな元暗殺者生徒。

…ま、まさか…。

「ふ、二人共、一体何をしたの!?」

慌てふためいて尋ねる天音さんに、

「ワサビチョコレートを食べたら、絶対水を欲しがると思ったから…その隙に、水のコップをレモン汁のコップにすり替えた」

…悪魔。

…この子達は悪魔です。

「僕が丹精込めて、レモン汁を搾ったんだよ」

「それを俺がすり替えた。凄い連携プレーでしょ?」

しかも、それを自慢気に披露。

とてもではないですが、手に負えません。

更に酷いことに。

「ちなみに、この一連の悪戯、シナリオを考えたのは僕です」

何事もなかったように、さらりと。

自分は、何も仕込まれていない普通のチョコレートを摘みながら。

足を組んで優雅に微笑むナジュさん。

…諸悪の根源…ということですか。

成程、日頃の行いって、やっぱり大事なんですね。

「やっぱり学院長に勝つには、裏をかくことが大事ですからね。二人共、これを成功させたことは大きな一歩ですよ」

「うん、打倒学院長の日も近いね」

「卒業までには、確実にやれるね〜」

この三人は、一体何の話をしてるんでしょう?

そ、それより。

「しっかりしてください、学院長先生…!」

「あばばばばばば」

駄目です。人語を喋ってない。

病院に…病院に連れて行った方が良いのでは…?

普段は甘いものしか口にしない学院長先生の舌が、いきなりワサビとレモンのダブルパンチを受けて。

もう、味覚が行方不明。

「…イレース。こいつら、三人まとめて拷問した方が良いんじゃないか?」

「奇遇ですね。私も今、同じことを考えていたところです」

羽久さんとイレースさんの、真剣な会話をよそに。

「ぴえ〜ん!!」

学院長先生の、悲しげな悲鳴が室内に響いていた。