神殺しのクロノスタシスⅣ

突然、満面笑みでチョコレートを口に入れたはずの学院長先生がチョコレートを吐き出し、そして。

「げほっ…!げほっ、えっ、ぐ、えほっ…」

物凄く、噎せていらっしゃった。

「だ、大丈夫ですか、学院長先生?」

私は、慌てて学院長先生の背中を擦りながら尋ねた。

まさか、あの学院長先生が大好きなチョコレートで噎せるとは。

もしかして、勢い良く食べ過ぎて器官に入ったとか?

と、思ったら。

「二人共、よくやりましたね」

「うん、不死身先生の言った通り、真ん中のを取ったね」

「食い意地張ってるなー」

ボソボソと、元暗殺者二人と、そしてナジュさんが謎の会話。

さ、三人共、何を?

「…お前ら、何をやった?」

私の代わりに尋ねる羽久さん。

「学院長のチョコレートに、ワサビを仕込んだ」

…。

…あなた、そんな嬉しそうな顔で。

…教育が悪いですね。

うちの子は、そんなことはしないように育てましょう…。

「何をやってんだお前らは」

「不死身先生が、面白いからやってみたら、って」

成程、日頃の行いとはこういうことを指すのですね。

「ぴえーん!!」

ほら、学院長先生が恥も外聞もなく泣いていらっしゃる。

…ぴえん…?

「が、学院長先生、しっかり…」

天音さんも、私と同じく学院長先生を心配して駆け寄る。

「み、みじゅ…みじゅ〜…」

あまりの苦さに、半泣きで水を求める学院長先生。

ワサビ…ですもんね。

普段甘党の学院長にとっては、ほんの少しの苦さでも、酷く苦しいに違いありません。

「はい、お水…」

と、天音さんが学院長先生のコップを手渡すと。

学院長先生は、砂漠でオアシスに出会ったかのように、コップの水を勢い良く飲み干し、

「ぶはぁっ!!」

…ませんでした。

マーライオンのように噴き出した水が、床に撒き散らされた。