神殺しのクロノスタシスⅣ

「イレースちゃん!私ココアね!ココア!砂糖いっぱい入れた奴!」

「あなたは水でも飲んでなさい」

「酷い!」

え、えーと…。

やがて十分後、イレースさんが人数分のお茶を持ってきてくれました。

…が。

「どうぞ、シュニィさん」

「ありがとうございます」

私の前には、ほかほかと湯気を立てる紅茶のティーカップ。

そして。

「あなたはこれです」

「えぇぇーっ!本当に水!?」

学院長先生の前には、本当に水道水を入れただけのコップ。

…イレースさん…。

更に、学院長先生だけではなく。

「あなた達も水です」

元暗殺者生徒二人にも、ただのお水だけ。

「反省中ですからね」
 
冷ややかな目のイレースさん。

容赦のない方だとは聞いていましたが、これほどとは…。

しかし、当の生徒二人は。

「水だって。綺麗な水だよ、良かった」

「うん。ミミズもボウフラも浮いてない。高級な水だね〜」

水に感動して、有り難く飲んでいる。

確かお二人は、ジャマ王国出身なんでしたよね。
 
ルーデュニア聖王国の上下水道は、非常に手厚く整備されていますが。

ジャマ王国の基準からしたら、ただの水道水でも高級な水に見えるのでしょう。

気持ちは分かります。

蛇口を捻って出てきた水が、そのまま飲料水として使える国は珍しいですからね。
 
…すると。

「…で、何で僕も水なんですか?僕は、特に悪いことしてないですよね」

ナジュさんが、自分の前に置かれたコップを指差して言った。

本当だ。何でナジュさんまでお水…。

イレースさんは、ナジュさんの当然の問いに、これまた冷ややかに答えた。

「日頃の行いです」

…あっ…。

「酷いですよねー。こんなに善行ばかり積んでる教師は、ルーデュニア聖王国広しと言えどもそうはいませんよ。ねぇ?」

「えっ?あ、はい…。そ、そうですね…?」

そ、そうなんですか?

結局、私と同じく紅茶を出してもらったのは、羽久さんと天音さんと、紅茶を淹れた本人であるイレースさんだけ。

残りの人は、皆お水。

酷い格差です。

何だか申し訳なくなってきたので、私もお水の方が良かったでしょうか…。

「よし!気を取り直して、皆でチョコを食べよう!はいっ」

学院長先生が、チョコレートの詰め合わせをテーブルの中央に置いた。

あ、ありがとうございます。

でも私、よく考えたらお茶を頂きに来たんじゃなくて…。

「この中央の、一番美味しそうなチョコは私のだからね!一番美味しそうだし!いただきまーす!」

学院長先生はそんな私には全く構わず、箱の中央にある、大振りで洒落た形をしたチョコレートを摘んだ。

「卑しい学院長ですね」

イレースさんは、またしても毒づいていたけれど。

目の前のチョコレートに夢中の学院長先生は、そんなことにも気づかな、

「むむっ!?…むぼわはぁっ!」

「ちょ、何だお前汚ぇ!」

!?