神殺しのクロノスタシスⅣ

「『八千歳』、そろそろ良いかな」

「うん。俺も飽きてきたしな〜」

…え?

さっきまで宙吊りになっていた二人が、しゅたっ、と床に着地。

ぐるぐる巻きにされていたはずのロープは、はらはらと解けて落ちた。

これには、私も目が点。

さっきまで…ロープで簀巻きにされていたのに。一体どうやって…?

「…お前ら。何勝手に脱出してんだ」

「だって、同じ拷問ばっかりで飽きちゃったから…」

まさか、飽きたという理由で拷問から抜け出すとは。

と言うか、抜け出そうと思えばいつでも出来たんですね?

しかもその言い方だと、拷問にレパートリーがあれば進んで受ける気だったんですか。

「実はこの二人、『次は鈎吊りかな』とか、『釘刺されるのかな』とか、内心ちょっとわくわくしながら待ってましたからね」

ナジュさんが、二人の心の中を読んで補足してくれた。

そ、そんな。拷問というものは、エンターテイメント性のあるイベントではありません。

「予想以上にヌルいからさー、もう飽きたよ」

「ワンパターンだとつまらないよね」

…。

さすがと言うべきなのか、悲しむべきか。
 
これが、元『アメノミコト』の暗殺者なんですね。

「拷問云々は置いといて…お前ら、いい加減脱走癖をやめろ。盗み聞きもやめろ。勝手に異次元世界に行くのもやめろ!」

羽久さんが、珍しく本気で怒っていた。

それは…まぁ、怒りますよね。普通。

「だって、ねぇ『八千歳』」

「うん。だよねー『八千代』」

「勝手に二人で通じ合って、勝手に納得すんな」

こちらには、全く伝わってきませんよね。

このお二人の常識は、私達のものとはかけ離れているようですから。

「そーいう汚れ仕事は、俺達のジョブじゃん?」

「勝手にジョブにすんな。お前らは子供で、そして生徒だ。責任を負うのは大人であって、お前らじゃない」

…羽久さん、仰る通りです。

「でも僕達は元暗殺者として、裏の仕事をこっそり速やかにこなして、表の世界の平和を守るのが役目で…」

「だから、それをするのは大人だって言ってるんだ。今回は無事だったから良いようなものを…無事じゃなかったらお前ら、今度こそ覚悟しとけよ」

今回は、宙吊り拷問でしたもんね。

次はどうなるのか…考えてただけで恐ろしいです。