「お帰り皆!お帰り!はいこれ、チョコあげるね。はいっ、ミーナちゃんお帰り!はいチョコ。あっ、ルース君もお帰り!チョコあげるからほら」

シルナは、帰ってくる生徒一人一人に、チョコレートを配って回っていた。

「あっ、テイル君お帰り!君は乳製品アレルギーだから…はいっ、アレルゲンフリーチョコあげるね!」

そして、生徒のアレルギー事情に配慮する、無駄な仕事の丁寧さを発揮していく。

二年生以上の生徒は、毎年、ってか毎学期恒例の行事だと思って、苦笑いでチョコレートを受け取っているが。

それどころか、

「あ、学院長先生ただいま〜。はい、これお土産の、チョコクリームマリトッツォです」

「え、良いの!?」

上級生の生徒の中には、お返しとばかりに、シルナに帰省のお土産を渡す始末。

「良いですよ〜。先生方で食べてください」

「う…うぅ…」

渡されたお土産の紙袋を、恭しく受け取ったシルナの目に。

ぶわっ、と涙が浮かんだ。

「あ…ありがとぉぉぉぉ!レイナちゃんありがとぉぉぉ!この恩は一生忘れないよ!」

「あはは…。大袈裟ですよ〜…」

涙を流さんばかりのシルナに、苦笑いの女子生徒、レイナ。

あの子確か、五年生の生徒だっけ。

そりゃあ五年生ともなれば、シルナの好みは、知り尽くしていることだろう。

シルナの病的なまでのチョコレート好きは、ほぼ全ての生徒が知っている。

しかし、生徒全員が知っている訳ではない。

というのも、まだ入学したばかりの一年生は。

「あっ、お帰りマリト君!チョコあげるよ〜」

「えっ、が、学院長…?えっ…?」

まさか、夏休みが終わって、学校に帰ってきたと思ったら。

学院長が校門に待機して、チョコレートを配って回っているとは知らず、この反応である。

まぁ、普通はそうなるだろう。

「はいチョコ!」

「…あ、ありがとうございます…?」

良い笑顔でチョコを渡され、困惑しながらも受け取る男子生徒、マリト。

そのまま首を傾げながら、校舎に入っていった。

ごめんな。そういう奴なんだよ。

毎年毎学期、生徒が長期休暇から帰ってくる日に合わせて。

チョコレート菓子の小袋詰め合わせを、生徒一人一人分用意してるんだ。

にこにこと、超良い笑顔でな。

そして、その作業の間、全然学院長としての仕事をしないので。

「…こういうときだけ、まめに動くんですから…。あのパンダ教師…」

と、同僚教師のイレース・クローリアに、密かに毒づかれている。

…良くも悪くも。

イーニシュフェルト魔導学院の、いつもの日常である。