神殺しのクロノスタシスⅣ

俺は、今聞いた言葉が信じられなかった。

『玉響』…って言ったよな?

「『玉響』って…。何で…?」

そこで、彼の話が出てくるんだ?

だってあの人はもう…。

学院長は俺の呟きが聞こえなかったらしく。

改めて、俺と『八千代』に向き直った。

「良い?二人共、『玉響』君を見習って、真面目な良い子になること!もう悪戯しちゃ駄目だからね!」

学院長。

君、何言ってるの?

それは、俺に対する皮肉なのか?

それとも…。

「…学院長」

俺は、静かな声で聞いた。

「何?」

「『玉響』が何だって…?『玉響』は何処にいるの?」

こんな質問をするなんて、馬鹿げているにも程がある。

『玉響』が何処にいるかなんて、そんなの俺が一番良く知っている。

だって、『玉響』を殺したのは…。

返事をしたのは、ぽかんとしている学院長ではなく、羽久せんせーだった。

何事もないみたいな顔して、平然と言った。

「何処って…。園芸部の畑だろ?お前と同じ部活なんだから。今頃、野菜に水でもやってんじゃないの?」

羽久せんせーが、そう言うなり。

「あっ、こらっ!すぐり君!?」

学院長が止めるのも聞かず、俺は窓から飛び降りた。

着地するなり、真っ直ぐに走り出す。

園芸部の畑に向かって。

息を切らして、全速力で。

すると、いつもの園芸部の風景が見えてきた。

茶色い土を盛った畑があって、植物が葉を茂らせていて、そこにツキナがじょうろを持って立っていて…。

でも、そこは俺の知らない風景になっていた。

だって。

「あれ?『八千歳』さん、お帰りなさい」

「…」

そこには、笑顔でこちらを振り向く『玉響』の姿があった。

「…」

俺は、しばらく何も言えなかった。

ただ、呆然と突っ立っていた。

…墓の下から、亡霊が蘇ってきた。

「学院長先生に怒られたんでしょう?ナジュ先生にそそのかされて、悪戯なんかするから」

そう言って、『玉響』は苦笑した。

「でも、案外早くお説教は終わったみたいですね。…あれ、『八千代』さんは?一緒じゃないんですか?」

「…」

「あ、これ見てください、『八千歳』さん。この間植えた大根、もう芽が出てきてるんですよ。収穫するのが楽しみですね」

笑顔で、大根の芽を指差す『玉響』。

「気が早いなー、隊員その3!大根は、植えてから2ヶ月くらいたたないと、収穫出来ないんだぞ」

当たり前のように言って、笑うツキナ。

「そうなんですか?待ち遠しいですね」

「焦るでない!落ち着いて待つと良い!」

「とか言いながらツキナさんも、収穫したらあれ作ろうこれ作ろう、って色々言ってたじゃないですか」

「そうだけど!うーんと…まずは大根ステーキ作って、味噌田楽にしてー」

「あ、大根おろしにして食べましょうよ。確かに『八千歳』さんは、大根おろし好きでしたもんね?」

…『玉響』は、俺を見上げて言った。

…俺が何を好きかなんて、君は知らないはずだよ。

よく分かった。

全て分かったよ。

「…誰のフリして物を言ってんの、お前」

俺は、『玉響』の襟首を掴んだ。