神殺しのクロノスタシスⅣ

…あぁ、そうだったんだ。

そういうことだったんだ。

…ようやく分かったよ。

「…これを、僕に見せたかったんだね」

僕は、小さくそう呟いた。

この異次元世界の目的が、いまいちよく分かっていなかった。

何で僕にこんなものを見せるのか、これの何が僕にとって試練なのか、さっぱり理解していなかった。

でも、こういうことだったんだ。

これを、僕に見せたかったんだ。

幸せな家庭。裕福な家庭。

両親に愛され、家族な恵まれて育つ家庭。

そんな幸せな家庭を、僕はいくつも、いくつも…。

…破壊してきた。

殺してきた。暗殺のターゲットだから。

それは、『アメノミコト』に仇を為す相手だったり。

誰かを目障りに思った人が、金を払って『アメノミコト』に依頼したり。

そういう人を始末するのは、いつだって僕達の仕事だった。

僕は壊してきた。

こんな…幸せな家庭を、いくつもいくつも。

だから僕は、ここにいるのだ。

ここで見せつけられているのだ。

お前がやったのは、こういうことなんだって。

お前が殺したのは、こんな幸せな家庭だったんだって。

こんな幸せな家庭を、お前は平気で、いくつも何度も壊してきたんだって…。

…それを見せたかったんだね。

だって僕は一度も、殺された相手のことなんて考えてこなかった。

僕達に知らされるのは、ターゲットの名前と、顔と、潜伏地くらい。

それ以上の情報は、暗殺には必要ない。

僕の目的は、ターゲットを殺すことだから。

仕事さえ果たさせれば、それで良かった。

仕事を果たした後のことなんて、関心さえなかった。

ターゲットのバックボーンなんて…そんなの、僕にはどうでも良いことだった。

でも、どうでも良くない人だって、いたんだ。

当たり前だ。

生きている人が、今この世に存在している人が一人、突然消えてなくなったんだから。

こんな幸せな家庭も、きっとあったんだよね。

僕が殺した人の中に、きっといたんだよね。

僕が殺したせいで、幸せの絶頂から、不幸のどん底に叩きつけられた人達が…。




…と、僕がそれを自覚した、そのときだった。