神殺しのクロノスタシスⅣ

遊園地は、とても華やかな場所だった。

あちこちに花壇があって、綺麗な花が咲き乱れ。
 
園内のスピーカーからは、絶えず楽しげな音楽が流れていた。

アトラクション…って言うのだろうか?ジェットコースターや、観覧車もあった。

どれも、知識として聞いたことはあっても、実物を見るのは初めてだ。

ましてや、乗ったことなんてあるはずがない。

まさに別世界だ。

本当に別世界なんだけど。

こういうところは、まず『八千歳』と一緒に来たかったな。

「さぁ、令。どれに乗りたい?まずどれから乗ろうか」

僕の手を繋いだ父親(仮)が、優しげに尋ねた。

…乗るものなんて、何でも良い。

「…何が面白い?何でも良い」

「そうかい?じゃあ…まずはメリーゴーラウンドから乗ろうか」

父親(仮)に促され、僕は人生初。

メリーゴーラウンドに搭乗。

見た目は凄く派手なのに、やっていることは、メッキを貼った馬に跨って、同じ場所をぐるぐる回ってるだけだった。

最初は興奮するけど、段々つまらなくなっていくタイプ。

次に乗ったのは、ジェットコースター。

これは楽しかった。スピードの緩急が癖になりそうだった。

何なら、もっと速くても良かった。

出来れば音速くらい。

それから、園内の売店でソフトクリームを食べた。

学院長からアイスクリームをもらうことはよくあったけど、いつもチョコ味ばかりだったので。

普通の、白いソフトクリームは、何だか新鮮な味だった。

でも、ソフトクリームが乗っているのは上の方だけで、下のコーンの中は空洞だったから、これは詐欺じゃないのかと思った。

優良誤認詐欺だ。

そして最後に、観覧車に乗った。

凄くのろのろと進んでて、正直退屈…だったのだが。

「あぁ、ほら見て、令」

母親(仮)が、ゴンドラの外を指差した。

その先には、丁度海が見えて。

夕陽が今まさに海に沈もうとしている、絶景の瞬間だった。

「凄く綺麗よね。絵になるわ」

「本当になぁ…。今日を締めくくるには丁度良い。今日は良い一日だったな」

と、父親(仮)も言った。

…良い一日…か。

少なくとも僕は、本物の両親と一緒に暮らしていたとき。

良い一日を過ごすなんて、そんな日は一日もなかった。

両親に売られてからも、ずっとそう。

『アメノミコト』にいたときに、心休まる日なんてなかった。

いつもいつも、厳しい訓練か、あるいは任務。

僕はいつも、任務で人を殺して…。

…そう…この父親(仮)みたいな、お金持ちの、由緒ある家の富豪を殺したり、





と、そのとき。

僕の中で、外れていたジグソーパズルのピースが、カチッ、と嵌まるような感覚がした。