神殺しのクロノスタシスⅣ

…僕は小一時間ほどかけて、屋敷の中を隅々まで探し回った。

野ネズミのように、屋根裏にまで侵入した。

敷地内に蔵まであったので、そこも鍵を開けて乗り込んできた。

何があるのかと思ったが、古い骨董品みたいなものがコレクションされていただけだった。

父親(仮)の趣味だろうか?

それよりも。

この屋敷を一周して、分かったことは。

あの父親(仮)は…と言うか、この家の人間は、代々。

かなり、家族意識が強い人柄のようだ。

結婚して十年目でようやく生まれた僕を、あれほど可愛がっていた訳だ。

屋敷の中で一番広い居間には、この家代々の当主の写真が、並んで飾ってあった。

随分古い写真から残っている。

写真どころか、最初の数人は肖像画だった。

成程、それで僕の写真も撮りまくっていたんだろう。

そう、写真。

この家は、どの部屋にも必ずと言って良いほど、写真立てが置いてある。

写真立てに入っている写真は、どれも僕が写っている。

赤ん坊の僕、二、三歳のときの僕、五、六歳の頃の僕、十歳くらいの僕…。

どの部屋に行っても、僕がいっぱい。

呆れてしまうほどだ。

だが、写真に写っている僕は、常に満面の笑みで。

その写真を見ていると、微笑ましくもなるのだろう。

特に両親の寝室らしき部屋には、写真立てがいくつも置いてあった。

世間では、これを親馬鹿と言う。

本物の親に愛されたことのない僕には、全く分からない感情だ。

とりあえず、この屋敷の中を探索して分かったことは。

1、案外警備は甘い。

2、トラップや探知機の類は一切ない。

3、両親(仮)が親馬鹿。

以上の三つだ。

上二つは、僕にとって有り難いことだが。

一番下の一つは…。

…どうなんだろう?

両親(仮)はあくまでも(仮)なんだから、愛されようと愛されまいと、どうでも良いことだ。

そもそもこの世界は、魔封じの石とやらが作った仮初めの世界なのだ。

そんな仮初めの世界の住人に愛されようと、何にも心に響かない。

僕には関係ない。

それより僕にとって大事なのは、鍵だ。

この世界を壊し、魔封じの石を回収して、元の世界に帰る為の鍵。

一体、何処にあるのだろう?

多分僕は今、まだ、敵の手のひらの上だ。

目に見えない罠にかかったままだ。

まずは、この手のひらの上から、脱出しなければならない。

その為に、何をすれば良いか。

簡単なことだ。

僕が、敵にとって予想外のことをすれば良い。

それで、敵の罠からは逃れられる。

そしてその瞬間こそが、世界の亀裂となり、脱出の突破口になる…。

…と、思う。

ひとまず、屋敷の中には、ヒントになりそうなものはなかった。

今日は、それが分かっただけでも吉としよう。

明日は両親(仮)同伴とはいえ、外に出るらしいから。

今度は外に出て、調査をするとしよう。