神殺しのクロノスタシスⅣ

「あぁ、それは…。それはなぁ、まぁ、つい調子に乗り過ぎたところもあるんだが…。お前が生まれてきたのが嬉しくてな」

「…」

僕は父親(仮)の言葉に、返事が出来なかった。

「お前は、お父さんとお母さんが結婚して十年たって、ようやく生まれた子だからなぁ…。お前が生まれたときは、そりゃあ嬉しかったんだよ」

「そうよ。あんなに嬉しかったのは、後にも先にも、あなたが生まれたあのときだけだったわ」

父親(仮)に加えて、母親(仮)もそう言った。

少し照れ臭そうに、でも嬉しそうに。

「だからあなたは今でも、お父さんとお母さんの一番の宝物よ。令」

…それは…。それは僕じゃない。

僕じゃないのに…。

「さぁ、もう遅いからお休み」

母親(仮)が、僕を寝床に導いた。

「あぁ、そうだ。さっき、会社に連絡したんだ。明日休みを取ったから、一緒に遊園地に行こう」

父親(仮)が言った。

そんなに一瞬で、休みなんて取れるものなのか。

…取れるんだろうな。この屋敷の広さからしても、この人は雇われる側ではなく、雇う側のようだし…。

「楽しみにしてるんだよ」

「…」

「さぁ、明日の為にも、今日はもうお休み。令」

二人共、布団に横になった僕を、愛おしそうに見下ろした。

母親(仮)は、僕の頬を撫でて、目を細めていた。

父親(仮)はそんな僕と母親(仮)を見て、満足そうに笑みを浮かべた。

…なんて幸せな。

なんて、幸せな子供。

「お休みなさい、令。良い夢を見てね」

こんな安らぎに満ちた夜は、生まれて初めてだ。