神殺しのクロノスタシスⅣ

僕が開いたのは、本ではなかった。

アルバムだった。

写真がたくさん貼り付けられた、アルバム。

白黒の写真にはどれも、僕と見られる人物が写っていた。

生まれたての赤ん坊を抱いて、嬉しそうに微笑む母親(仮)の写真。

その隣には、今度は父親(仮)が、赤ん坊を抱いてカメラに笑顔を向けている。

それだけではない。

僕と見られる赤ん坊の写真が、たくさん貼ってあった。

何ページ捲ってみても、現れる写真はどれも僕ばかり…。

このアングル、さっきも見なかった?と思って見比べても。

着ているものが違ったりして、別々の写真なんだなと理解する。

こんなにたくさん、僕の写真ばかり撮ってどうするんだ。

更に、もう一つ気づいたことは。

僕の写真まみれのアルバム、この一冊だけじゃない。

アルバムが置いてあった隣も、その隣も、その隣も。

同様に、僕の成長記録とばかりに、年代別の僕の写真がアルバムに綴じられていた。

何処を開いても、僕の写真。

この部屋は、監視カメラでもつけられているのか?って思うくらい。

僕の写真がたくさん。

庭で遊んでいる僕の写真。

おやつを食べている僕の写真。

本を読んでいる僕の写真。

筆を持って習字をしている僕の写真。

楽器を弾いている僕の写真。

昼寝をしている僕の写真。

そこに不定期に、母親(仮)と父親(仮)が写り込んでいた。

写真に写っている両親(仮)の顔は、いつだって笑顔だった。

僕の知らない、僕の家族の絆がそこにあった。

「…」

こんなの…見せられたって、僕は知らないよ。

僕の知らない世界だ。

これを見せて、僕にどうしろって言うんだ。

「何を見せたって…全部、僕のものじゃないのに…」

僕はそう呟いて。

アルバムを、本棚に収めよう…と、したら。

再び、襖の向こうから僕を呼ぶ声がした。

「令?いるのか?」

「入るよ」

噂をすれば何とやら。

母親(仮)と父親(仮)だった。

さっき散々写真で見た顔が、今度は、現実に目の前にある。

「どうしたの?」

何の用だ。僕に。

「お休みを言いに来たのよ。令、そろそろ寝る時間でしょう?」

え?僕もう寝てるの?

まだ午後10時前だよ?

ここからが、覚醒する時間なんじゃないか。

「何をしてたんだ?令…」

父親(仮)が聞いた。

「アルバムを見てた」

「アルバム?そうか」

「一つ聞いても良い?」

「うん?どうした?」

僕は、疑問を一つ解消することにした。

「これ…僕の写真なんだよね?」

「そうだよ?」

今更何を、と言わんばかりの父親(仮)。

「何で、こんなにたくさんあるの?」

似たような写真ばかり、何枚も何枚も。

フィルムの無駄遣いだ。

…しかし。