神殺しのクロノスタシスⅣ

入浴後。

部屋に戻った僕は、自分の部屋の中を見渡した。

相変わらず全く見覚えのない、他人の部屋だが。

でも今は、僕が自由に動き回れるのは、この部屋だけだから。

手始めに僕は、本棚にあった一冊の本を手にとってみた。

ここは異次元世界。

夢の中みたいなものだ。

夢の中で、本を読んだことってあるか?

その本の内容を、詳細に覚えていたことってあるか?

僕はない。

もしかしてこの本は、本の形をしているだけで、中身白紙なんじゃないか、と。

そこまで異次元世界で、リアルの世界を「再現」するのは難しいんじゃないのか。

そう思って、僕は本を開いてみることにしたのだ。

それがもしかしたら、この世界の綻びに繋がるかもしれない。

しかし、そこに。

「お坊ちゃま、失礼致します」

女中が、部屋の襖を開けた。

「…何?」

「奥様…お母様の言いつけで、干し柿をお持ちしましたので、どうぞお召し上がりください」

あぁ、そういえば言ってたね、そんなこと。

覚えててくれたんだ、あの母親(仮)。

「うん、分かった」

「はい。それでは、ごゆっくり…」

女中は、干し柿と煎茶を乗せたお盆を、僕の部屋に置いて去っていった。

干し柿が食べたかった云々は、ただの方便。

しかし、食べ物を無駄にする趣味はない。

ので。

「もぐもぐ」

ご丁寧に、薄くスライスした干し柿を、まるごと摘んで口に放り込む。

スライスしてくれるのは有り難いけど。

干し柿と言えばやっぱり、まるのままのを齧り付くのが粋だと思う。

味は悪くない。

ずずず、とお茶を飲み干し。

干し柿タイム終了。ご馳走様。

さて、干し柿も食べ終わったので、本を開いてみよう。

僕は、手に取った一冊の本を、ぺらっ、と捲ってみた。

すると。

「…これ…」

これは…予想していなかった。