神殺しのクロノスタシスⅣ

この人、僕の父親なのか。

やっぱり、僕の本当の父親とは似ても似つかないけど。

そもそも、そんなに覚えてないけど。

この世界では、この人が父親役であるらしい。

へぇ。

「聞いたよ。昼間は庭の木に登ったりして、それで落ちたんだろう?」

「うん、落ちた」

「そんな危ないことをしたら駄目だ。何でそんなことしたんだ?」

何でって言われても。

僕にも分からない。この世界に来たときには、既に木登りの真っ最中だったし。

何がしたかったんだろう、僕。

でも、柿の木に登る理由なんて一つしかない。

多分、

「柿が食べたかったからかな」

これ以外に理由はないはずだ。

すると父親(仮)は、溜め息を溢した。

「あれは渋柿なんだから、取っても食べられないよ」

そうなんだ。

そういえば母親(仮)も言ってたね、同じこと。

渋柿と言えば、あれか…。干して干し柿にする…。

「じゃあ、干し柿が食べたかったから」

「なら、素直にそう言いなさい。木に登ったりして…危ないだろう?」

別にそんなことはない。

高層ビルの屋上までよじ登れ、と言われる方が、余程大変だ。

木登りなら容易いもの。ましてやあんなちっちゃな木なら、尚更。

でも、どうにもこの夫妻は過保護なようで。

「干し柿なら、後で使用人に持って行かせるから。もうあんな危ないことはしたらいけないよ」

「…」

「分かった?」

「…うん」

頷いておいた。

仕方がないので。

この人と口論しても、どうにもならない。

「それと…変なことを言って、お母さんを困らせないこと」

「変なこと?」

「お母さんから聞いたよ。世界を壊すとか何とか…」

あぁ、それ。

折角父親(仮)という登場人物も増えたんだし、この人にも聞いてみようと思ったのだが…。
 
「何をおかしなことを思いついたんだか、全く」

…何だか、それどころじゃないっぽいね。

呆れて溜め息つかれちゃったよ。

「もうおかしなこと言うんじゃないよ。分かったね?良い子にしてたら…そうだ、今度、遊園地に連れて行ってあげるから」

「遊園地?」

「そう。先月出来たばかりの遊園地。行きたがってただろう?」

そうなの?

「今度お父さんが休みのときに、連れて行ってあげるよ。だから、大人しく良い子にしてるんだよ?」

「…分かった」

遊園地とかは、別にどうでも良いけど。

この人に何を聞いても、多分何の情報も持ってない。

そう判断した。

「よし。じゃあ、そろそろ夕食を食べようか。お母さんも待ってるよ」

父親(仮)は、わざわざ僕の手を繋いで、広い屋敷の廊下を歩き出した。