今更こんなことを言ったって、どうにもならないし。

死んだ人は、僕を許さない。

だからこれは、単なる僕の自己満足だ。

「…ごめんなさい、天音さん」

「…え…?」

「あなたの幸せ…。あなたの大切な人の幸せを…壊して、ごめんなさい…」

「…」

罪悪感で僕を潰すのが、あの異次元世界の目的だったらしいが。

あれは、本当に良い線行ってましたよ。

危うく潰されるところだった。

危うく呑まれるところだった。

確かに僕には、罪悪感ですり潰されてしまうほどの良心は残っていないけど。

痛いところをグサリと刺されて、大出血して、ついでにその傷口に塩をたっぷり塗りつけられた…くらいには。

罪悪感で、心が痛かったりするんですよ。

妙なところで繊細なんでね、僕の心は。

だから、今更謝ることで、自分の罪悪感を少しでも癒やそうとしている。

本当に、最低の人でなしですよ。

救いようがない。こんな人間は。

だから、思いっきり罵って欲しい。

今更何言ってんだこの馬鹿、死んだ人に土下座しろ、と罵倒して欲しい。

その方が、ずっと楽になる。

…けれど。

「…大丈夫?異次元世界で…随分辛い思いしたんだね」

…ほら、これだよ。

あなたはこうして、こんなろくでなしにも、誰にでも、優しいから。

僕を責めることはない。

「やっぱり、僕が行けば良かった…」

まさか。

「あなたは無理ですよ…。優し過ぎて…他人を傷つけられないから」

「…それは君もでしょ?」

何を言ってるんだか。

「僕ほどの悪党が、優しいなんて有り得ない…」

「本当に悪党だったら、謝ったりもしないし、後悔もしないよ」

「…」

…それは…。

…物は言い様、って奴では?

「自分の罪を、自分の弱さを、自分の愚かさを知ってる人は、それだけ人に優しく出来るってことだから。君がいつも、僕達の代わりに自分の命を張るのは、そういうことでしょ?」

「…そういうことなんですかね?」

「自覚がないんだ?じゃあ、やっぱり君も、根は優しい人なんだよ。罪悪感なんて、元々優しい人しか感じないものなんだから」

…成程。

表裏のない、忌憚なき意見をありがとうございます。

…あなたの心には裏がないから、読み甲斐がありませんね。

「…済みません」

「随分、異次元世界でいじめられたみたいだね。身体が疲れてるときは、余計に心も弱くなるものだよ」

そうかもしれませんね。

「学院長と羽久さんも、何だか一悶着あったみたいだし」

え。

「そうなんですか…?」

「うん…。異次元世界って、相手を精神的に傷つけるみたい」

…最低ですね。
 
「酷いことしますよ、本当…。性格悪いですね」

人のことは言えませんけどね。

天音さんもそう言って良いんですよ。