神殺しのクロノスタシスⅣ

それは、凄惨な血祭だった。

悲鳴と怒号が飛び交い、小屋の中で村人が逃げ回った。

だが、僕は逃げる者を許さない。

全員殺す。皆殺しだ。

あの日と同じ。

僕に罪悪感を感じさせるのが、この異次元世界の目的なんだろう?

なら僕がここから出るには、あの日の再現をしなければならない。

恐らくそれが、僕がこの世界から出る条件だ。

だから僕は、容赦なく両剣を振り回した。

あの日と同じように、虐殺を。

「…おっと」

「きゃぁぁぁ!」

僕は、腰を抜かして呆然としていた、例の幼女の襟首を掴んだ。

そういえばこの幼女には恩があるんだっけ。

涙を流しながら、幼女は僕を見つめた。

すると彼女の心の声が、僕の頭に流れ込んできた。

『お兄ちゃん…何で…何でこんなことを…?』

あれ?

ここって、魔法使えない世界のはずでは?

ちょっとノイズ混じりではあるが、読心魔法が使えたぞ。

まぁ、魔封じの世界と言えども、完璧じゃないって学院長言ってたし。

得意な魔法なら、多少は使えるのかしれない。

とはいえ、この世界において、読心魔法は大して意味がない。

だってこれは、一方的な虐殺。

相手の意志を知る必要などない。

…でも。

この子には、恩がある。

僕を、この村に招いてくれた恩が。

だから優しい僕が、彼女に答えをあげよう。

何でこんなことをするのか、って?

「そんなの、これが僕の本質だからに決まってるでしょう?」

せめて苦しませないよう、僕は両剣の一振りで、幼女の首を切断した。

はい、おしまい。

君はもう痛みを感じることはない。永遠に。

黄泉の国という、この世で最も幸せな世界に行ったのだ。

「…っ!!いやぁぁぁ!」

首から上をなくした、憐れな娘の亡骸を抱いて。

あの親切なご婦人が、悲痛な悲鳴を上げた。

「…知らない人に、あまり親切にしない方が良いですよ?」

僕は、彼女の来世の為にそう忠告してあげた。

来世なんてものが、本当にあるのかは知りませんけどね。

「こんなことに発展したりもするんですから」

「…!こ、この恩知らず…人殺し!人殺しっ…!」

「えぇ、そうです」

僕の代わりに自己紹介、ありがとうございます。

そう、僕は恩知らずの人殺しですよ。

それはもう救いようのない、悪鬼なんです。

「でも僕は、あなた達が羨ましい」

僕は、娘の亡骸を抱え、深い憎しみに満ちた目で。

死の直前まで、力一杯僕を睨みつける、ご婦人の視線を真っ直ぐに受け止めた。

彼女の心の中も、憎しみでいっぱいだった。

凄い目ですね。そんな目で見られるなんて。

そんな深い憎しみを、一身にぶつけられるなんて。

ここは、なんという酷い世界だろう。

でも僕は、あなたが羨ましい…。

ここにいる、全ての人が羨ましい。

だって。














「…死ねるんでしょう?あなた達は」

僕は死ねないんですよ。

…どれだけ、他人の死で心の欠落を埋めようとしても。