神殺しのクロノスタシスⅣ

平和。

「平和」。

その言葉が、僕にとってトリガーだった。

呼び起こしてしまいましたね。僕の中に眠る…僕の本性を。

「僕に平和なんて有り得ない…。僕は、平和を壊す人間なんですよ」

ギリギリと首を絞め上げながら、僕はそう言った。

酷い人間だろう?

助けてもらった恩を、仇で返そうとしている。

仇どころか、皆殺しで返すんだ。

「いつだって壊してきた。殺してきた。自分の願いの為なら、誰を犠牲にしても構わない。それが僕の本性」

だから、ずっと疎外感を感じ続けてきた。

この村は、自分のいるべき場所じゃないと。

それは勿論、僕が本来、この世界の人間ではないからという理由もあるが。

それ以上に僕は、このような平和な場所にいるべき存在ではないのだ。

だって、僕は壊したんだから。

そういうことだ。ようやく僕は、この世界の仕組みを理解した。

「思い出したんですよ。僕には僕のやるべきことがある…。その為なら、僕は何度でも同じことをしますよ」

天音さんのときの再現なんでしょう?この異次元世界は。

もう一回殺せって言ってるんでしょう?僕に。

「僕の罪悪感を煽るのが目的なんでしょう?きっとこんな感じだったんでしょうね…僕が殺した、天音さんのいた村は」

天音さんと初めて会ったとき。

僕がまだ、死にたがりの旅を続けていた頃。

天音さんに殺してもらう為に、彼がいた村を襲撃した。

村人を、残らず皆殺しにした。

あれと同じことをしろって言ってるんでしょう?

なら、やりますよ。

「う…ぐ…」

僕は、ご主人の首が千切れるほどに、ネックレスを絞め上げた。

やがて、強く絞め過ぎたネックレスが、ブチッと音を立てて切れた。

白いビーズが、床一面に散らばった。

そう。それで良い。

僕に、白なんて似合わない。

事切れたご主人が、床に崩れ落ちた。

同時に、周囲から悲鳴が上がった。

賑やかだったお祭りが、一瞬にして血の饗宴と化す。

「持ってきてたんでした、これ」

僕は、懐から「武器」を取り出した。

少し魔力を込めると、それは全長二メートルほどの高さにもなる、ゴツい両剣に变化した。

これは何かって?

学院長の魔法だよ。

この異次元世界に来る前に、用意しておいたんだ。

圧縮袋みたいなものだ。

あらかじめ、学院長が両剣を魔法で小型化し、異次元世界に持ち込み。

少し魔力を込めたら、もとの大きさに戻るようになっている。

便利でしょう?

そして。

今、この場にいる全員を殺すには、充分な武器だ。