神殺しのクロノスタシスⅣ

その頃には、僕の身を取り巻く環境も、そして僕自身の心境も、かなり変わっていた。

まず、松葉杖をつかなくても良くなった。 

三食ごとに飲まされる、あの薬のお陰なのか。

擦り傷まみれの身体も、足首の捻挫も、すっかり治った。

お陰で、松葉杖をつかなくても、村の中を自由に歩き回れるようになっていた。

…と言っても、村の周囲の地理に疎い僕は、一人で森の中に入ることは禁じられていたが。

僕が周囲を探索しようとすると、たちまち村人に止められた。

「故郷を探したい気持ちは分かるが、この季節に不用意に森の中に入るのはやめた方が良い」と。

別に僕は、故郷探しをしたい訳ではなかったのだが。

それはともかく。

村の外を歩き回れない代わりに…と言ってはなんだが。

足が治るなり、村中の各家々に招待された。

昨日はこの家、今日はあの家、明後日はその家、みたいに。

次はうちにおいでよ、いやいやうちに、と、まるで取り合いでもするかのように。

行く先々で、食事をご馳走になった。

この村の料理は、素朴だが手の込んだものが多くて、味はとても美味しかった。

ただ、もてなそうとする精神が大き過ぎて、量がめちゃくちゃ多かった。

そして、そのせいなのかどうかは分からないが。

やっぱり僕は、いかなるときでも、空腹を感じるということがなかった。

「お腹空いてるでしょう?」と言われても、「はい」と答えた試しがない。

村人は、僕が遠慮していると思っていたようだが。

遠慮などではない。本当に、僕の身体は空腹を感じない。

それどころか、食事をする必要性すらないのだ。

別に絶食して試した訳じゃないけど、本能でそれが分かる。

以上が、僕の周囲の環境の変化。

そして、僕自身の心境の変化についてだが…。

僕はここにいるべき存在ではない。

日増しに増すその疑念が、今は確信に変わっていた。

故郷じゃないのだから当たり前、と言われればそうなのだが。

でも、そういう次元の話ではないのだ。

故郷じゃないとかじゃなくて、それ以前の問題。

僕は、もっと別の、こことは全く違うから来た。

何らかの使命を帯びて。

それがどんな場所なのか、どんな使命なのかは分からないけど。

とにかく僕は、ここにいて良い人間ではないのだ。