神殺しのクロノスタシスⅣ

「優しい?」

「はい…。僕みたいな得体の知れない人にも、優しくしてくれて…。本当に、良い人ばかりです」

僕なんかがこんなところにいたらおかしい、と思うほどに。

何故そんな風に思うのだろう。

僕の、この自尊心の低さは何なんだ?

「だって、村の皆は家族だもん」

と、幼女は自信満々といった風に胸を張った。

「…家族…」

「そうだよ。皆家族なの。村の皆は家族なんだって、お父さんとお母さんが言ってた」

…村の皆が、家族…。

それだけ、連帯感の強い村だってことか…。

「…そうですよ」

台所から、湯呑みを乗せたお盆を持ったご婦人が戻ってきた。

僕達の会話を聞いていたらしく、笑顔でそう言った。

「人は、一人では生きていけませんからね。村の人は皆が家族だと思って、皆で協力して暮らすんです。それが、この村のやり方なんですよ」

「…そうなんですか…」

…良いですね、本当に。

素朴で、平和で、温厚で…。

「争い合っていがみ合っても、何にもなりませんからね。だったら、お互い足りないものを補い合って仲良く暮らした方が、居心地も良いですもの」

と、微笑むご婦人。

…やっぱり。

やっぱり僕は、この場所に相応しくない、と思う。

理由は分からないけど…。

「あ、そうだ!お兄ちゃんに、これあげようと思ったの」

ボーッとしている僕の目の前に、幼女がプレゼントを見せてきた。

これ…。

幼女が手渡してきたのは、白いビーズのネックレスだった。

「お母さんと二人で作ったんだよ!お祭りに行くなら、必要だろうって」

「は、はぁ…」 

「可愛いでしょ?」

「そ、そうですね」

差し出された手前、反射的に受け取ったが。

…こんな…。

こんなものは…僕には…。

「す、済みません…。本当に…色々としてもらって…。こんなものまで…」

「あら、気にしなくて良いんですよ。さっきも言ったでしょう…?この村にいる人は、皆家族。あなたも今は、私達の家族なんですから」

…家族…。…僕が…?この人達の…?

「えぇ、だから遠慮しなくて良いんです」

「そうだよ。お兄ちゃんは私の家族なんだよ」

ご婦人も幼女も、笑顔でそう言った。

僕が家族…。この人達と…この村の人々と…。

だから皆、僕に優しくしてくれる。親切にしてくれる。受け入れてくれる。

それはとても心地良くて、有り難くて…。

僕を、心から家族だと思ってくれているのが伝わってきて…。

だから僕も、受け入れれば良い。この人達が言うように。

僕もまた、今だけは、この村の一員で…この家の家族なのだと…。