神殺しのクロノスタシスⅣ

で、その村長の家からの帰り道。

多くの村人に話しかけられ、そして労われた。

「お兄さん、気の毒だねぇ。怪我は、まだ治らないのかい?」

「あ、いえ大丈夫です」

「良かったら、うちに泊まっていかないかい?美味しい果物があるんだよ」

「あ…いえ…大丈夫です…」

「そうかい?…じゃあ、お土産に持って帰ると良いよ」

「…」 

大丈夫です…という、僕の遠慮の言葉を何だと思っているのか。

村人のおばさんは、かごいっぱいの果物を持たせてきた。

何の果物だろう?これ。

よく分からないけど、押し付けられたものを押し返すことは出来なかった。

更に、十数歩歩くと。

「あ。あんたが村に迷い込んだっていう子かい」

数分足らずで、また声をかけられる。

「は、はい」

「足怪我してんのか。痛むか?」

「大丈夫ですけど…」

「まぁ待ってろ。確かうちに、良い薬があったはず…」

と、村人のおじさんは、家に入ってしばらくごそごそ。

出てきたときには、小さな容器を持っていた。

「これを腫れたところに塗ると良い。痛みなんてすぐ引くから」

「は、はぁ。ありがとうございます…」

「それから…ほら、これ昨日森で獲ってきたキノコだ。焼いて食べると美味いぞ。持っていくと良い」

「…どうも…」

持ち物が。持ち物が増えていく。

やっとおじさんから解放され、さて家路を急ごうと思ったら。

「あれ?あなた、例の記憶喪失になったっていう人?」

また数十歩も歩かないうちから、今度は村人のお姉さんに声をかけられた。

家路が遠い。

「そうですけど…」

「可哀想にね。家が分かれば、送っていってあげるのに…」

「あぁ、はい…」

「まぁ、落ち着くまでこの村にいれば良いわよ。良かったら、今度うちに夕食食べに来てね」

「…どうも」

ぺこり、と会釈すると、村人お姉さんは気を良くしたのか。

「ちょっと待っててね」

と言って、家の中に入って。

何だか嫌な予感がするなぁと思ってたら、案の定。

「はい、これうちで作ったチーズ。是非食べてみて」

続々と増える荷物。

僕松葉杖ついてるんですけど。この荷物を全部持って帰れと?

むしろ迷惑…いや、これもこの村の人々の好意なのだと思おう。

でも僕、いくら食べ物をもらっても、何故か不思議と全然空腹を感じないんだよな。

何故かは分からないけど…。

「どうも…ありがとうございます」

「ううん、良いのよ」

笑顔で手を振るお姉さん。

気持ちは嬉しいが、いくらなんでも荷物が…。

この村の人は、寛容なのも親切なのも良いが、少し加減を知るということを学んだ方が良い。

大荷物を抱え、松葉杖をついてよろよろ歩いていると。

今度は。

「ん?お兄ちゃん大丈夫?」

村人のお兄さんが、声をかけてきた。

またですか。

「足を怪我してるのか。…あぁ、この間村に流れ着いたっていう、記憶喪失の男っていうのは君か?」

「…はい…」

「やっぱりそうだったか。…しかし、随分な大荷物だなぁ。持って帰れるか?」

「…ぶっちゃけ、ちょっと辛いです…」

「あはは」

笑い事じゃないですよ。

「よし、俺が持ってあげよう。丁度、うちで取れた野菜を、君が厄介になっている家にお裾分けしようと思ってたんだ」

そう言って、お兄さんが荷物を全部、代わりに持ってくれた。

とても有り難かった。