成程、得心が行った。
親切なのは、あの家ではなく、この村全体の気質なのだ。
見ず知らず、しかも記憶喪失の怪しげな人物相手でも。
心から心配して、気遣ってくれている。
外に出られるようになったその日、僕はその村の村長のもとに足を運んだ。
村長と言うからには、かなりのお年寄りなんだろう…と思いきや。
まだ中年くらいの男性で、親しみの持てる優しげな村長だった。
僕の話を聞くと、彼は溜め息をついたが。
しかしその溜め息は、うんざりしたものではなく、同情から来る溜め息だった。
「それは気の毒だなぁ…。何処から来たのかも分からんとは…」
「はい…」
「まぁ、恐らく山の上の集落から流れてきたんだろうが…」
皆それ言いますよね。
それしか考えられないからなんだろうけど。
でも僕には、そんな集落にいた記憶は全く…。
「出来れば、山の上まで連れてってやりたいんだが…。生憎、今は時期が悪いんだなぁ」
と、村長は申し訳無さそうに言った。
時期。
現在この村の季節は、冬である。
「今山になんか登ったら、雪でどうにもならん。春になったら、また行商しに山の上にも行くんだが…」
とのこと。
行商とかやってるんですね。
あ、成程。今は冬で、物を売りに行こうにも雪で身動きがとれないから。
この季節は村にこもって、じゃあ祭りでもしようか、ってことか。
多分それが、この村の伝統なんだろうな。憶測ですけど。
「春になったら、また物を売りに山の上に行く。そのときついてくるなり、言伝を届けるなりしよう。動けなくて歯痒いだろうが、ともかくこの冬は、ここで過ごすと良い」
「は、はぁ…良いんですか?」
「何、迷い人の一人くらい。それに、行く宛もない、自分の記憶も覚束ない者を、野に放り出すようなことはせんよ」
村長は、人の良い笑顔で言った。
…それはそれは。ご親切なことで。
「祭りのことは聞いたかな?もうすぐこの村で、年に一度の祭りがあるんだ」
「あ、はい…聞きました」
「丁度良い。君も祭りに参加すると良い」
そんな簡単に言っちゃって良いのか?
「僕も参加して良いんですか?この村の人間じゃないのに…」
「なぁに。祭りの日にこの村にいる者は、旅人だろうと流浪人だろうと、誰でも関係ない」
…ふーん。
本当に、何て言うか…開かれた村なんだな。
こんな、いかにも怪しい人物でも、祭りに招待してくれるとは…。
「まぁ、自分の故郷と思って、ゆっくりしていくと良い。君を歓迎しよう」
「ありがとうございます」
こうして僕は、村長のお墨付きで、この村に滞在する許可を得たのだった。
親切なのは、あの家ではなく、この村全体の気質なのだ。
見ず知らず、しかも記憶喪失の怪しげな人物相手でも。
心から心配して、気遣ってくれている。
外に出られるようになったその日、僕はその村の村長のもとに足を運んだ。
村長と言うからには、かなりのお年寄りなんだろう…と思いきや。
まだ中年くらいの男性で、親しみの持てる優しげな村長だった。
僕の話を聞くと、彼は溜め息をついたが。
しかしその溜め息は、うんざりしたものではなく、同情から来る溜め息だった。
「それは気の毒だなぁ…。何処から来たのかも分からんとは…」
「はい…」
「まぁ、恐らく山の上の集落から流れてきたんだろうが…」
皆それ言いますよね。
それしか考えられないからなんだろうけど。
でも僕には、そんな集落にいた記憶は全く…。
「出来れば、山の上まで連れてってやりたいんだが…。生憎、今は時期が悪いんだなぁ」
と、村長は申し訳無さそうに言った。
時期。
現在この村の季節は、冬である。
「今山になんか登ったら、雪でどうにもならん。春になったら、また行商しに山の上にも行くんだが…」
とのこと。
行商とかやってるんですね。
あ、成程。今は冬で、物を売りに行こうにも雪で身動きがとれないから。
この季節は村にこもって、じゃあ祭りでもしようか、ってことか。
多分それが、この村の伝統なんだろうな。憶測ですけど。
「春になったら、また物を売りに山の上に行く。そのときついてくるなり、言伝を届けるなりしよう。動けなくて歯痒いだろうが、ともかくこの冬は、ここで過ごすと良い」
「は、はぁ…良いんですか?」
「何、迷い人の一人くらい。それに、行く宛もない、自分の記憶も覚束ない者を、野に放り出すようなことはせんよ」
村長は、人の良い笑顔で言った。
…それはそれは。ご親切なことで。
「祭りのことは聞いたかな?もうすぐこの村で、年に一度の祭りがあるんだ」
「あ、はい…聞きました」
「丁度良い。君も祭りに参加すると良い」
そんな簡単に言っちゃって良いのか?
「僕も参加して良いんですか?この村の人間じゃないのに…」
「なぁに。祭りの日にこの村にいる者は、旅人だろうと流浪人だろうと、誰でも関係ない」
…ふーん。
本当に、何て言うか…開かれた村なんだな。
こんな、いかにも怪しい人物でも、祭りに招待してくれるとは…。
「まぁ、自分の故郷と思って、ゆっくりしていくと良い。君を歓迎しよう」
「ありがとうございます」
こうして僕は、村長のお墨付きで、この村に滞在する許可を得たのだった。


