神殺しのクロノスタシスⅣ

日が暮れてきた頃。

審判のときがやって来た。

玄関の方から、人が入ってくる気配がして。

布団の傍でビーズを弄っていた幼女が、弾かれたように立ち上がった。

「お父さんだ!」

はい、死刑判決。

外暗くなってません?追い出すなら、せめて少しでも、日が昇っている間に追い出してください。

日が暮れてから野宿なんて、絶対良いことないですよ。

野生動物とかに襲われたらどうしよう?

でも、何故か何とかなりそうな気がしてる。

猛獣に襲われようが、毒蛇に噛まれようが、崖から墜落しようが。

僕って、そんなに楽観的な人間だったっけ…?

「お父さん!お帰りなさい!」

幼女は、たったと駆け足で玄関に向かった。

行っちゃった…。

僕の命運やいかに。

声は聞こえないが、多分今頃、ご婦人と幼女が説明していることだろう。

家の中に、謎の記憶喪失行き倒れ男を匿っている、と。

滞在を許可してもらえると良いのだが…。

内心びくびくしながら、判決が下されるのを待っていると。

足音が近づいてきて、襖が開けられた。

あ、やば。

体格のガッチリした、逞しいお父様と目が合ってしまった。

…ど…どうも。

こんばんは。お邪魔してます。

こちらから話しかけた方が良いのだろうか?厚かましいだろうか。

第一声出て行け、だったらどうしよう?

とりあえず、角の立たないように…。

「え、えーと…」

「身体は大丈夫か?」

は?

「…」

予想外の言葉に、僕はしばし言葉を失った。

多分、凄く間抜けな顔をしていたと思う。

「川に流されたなら、身体が冷えてるだろう。…風邪を引いたらいけない。火鉢でも用意してあげよう」

「は、はい…?」

険しい表情で、厳しい言葉が飛んでくるのかと思ったら。

火鉢出してもらいました。

それどころか。

「お粥を作ったんですよ。どうぞ、食べてください」

ご婦人が、湯気を立てるお皿を持ってきた。

えー…と…。

反応に困る奴。

「だ、大丈夫です…。全然お腹空いてないので…」

空腹を感じていないのは、事実だったのだが。

「駄目ですよ。さっきも食べなかったでしょう?ちゃんと食事をしないと、体力が持ちませんよ。さぁ」

半ば強引に、お皿を押し付けられてしまった。

「は、はぁ…ありがとうございます…」

何だか、火鉢出してもらって温かいし、何ならお粥までもらってるし。

僕のさっきまでの心配は、一体何だったんだ?