「出たぁぁぁ化け物化け物ばへもの!」

噛んでるぞ。

「助け、助けてぇぇイレースちゃ、」

「鼻水垂らして汚らしい。近寄らないでください」

イレースに助けを求めるも、鬼教官に救いはない。

「な、ナジュ君助け、」

「あはは、なると思ってた。ウケる〜!」

ナジュに助けを求めるも、指を差して笑うだけ。

そして、残るは。

「あ、天音君〜っ!助けて〜っ!」

「は、はい…。僕もびっくりしたので、大丈夫です…」

良かったな、シルナ。

天音だけは、シルナが鼻水垂らして縋り付いてこようと、無下にあしらわない。

ナジュはもうクビにしろよ。

…それと。

「…何をやってんだ?お前は」

「え?盗み聞き」

悪びれもせず、とんでもないことを言う逆さま男。

天井から、まるで空中に浮遊するかのように、ぷらぷらと浮いているのは。

元『アメノミコト』、『終日組』の暗殺者にして、イーニシュフェルト魔導学院三年生。

黒月令月である。

そして、令月がいるということは。

俺は、宙吊りになっている令月の上を見た。

何故か天井の板が、一部ぽっかりと外れ。

そこから、もう一人が覗いていた。

「ん?何で見てるの?」

「それはこっちの台詞だ、馬鹿」

何白々しい顔して、白々しいこと言ってんだ。

「降りてこい、すぐり」

同じく、元『終日組』暗殺者で、イーニシュフェルト魔導学院二年生。

花曇すぐりである。

令月が空中に宙ぶらりんになっているのは、このすぐりのせいだ。

目には見えないが、令月の足には、すぐりお得意の糸が巻かれており。

その糸で天井から吊って、宙吊りになっているのだ。

器用なのは分かるが、幽霊みたいなことすんな。

こいつらには気配というものがないから、余計幽霊みたいに見える。

「ふぇぇぇぇ、お化けぇぇぇぇ!」

見ろ。シルナがびびり散らかしてる。

なのに、元暗殺者組は、「何やってんの?」みたいなきょとん顔。

ったく…。

「降りてこい、お前ら」

まず、話はそこからだ。

「しょーがないなぁ。落とすよー『八千代』」

「うん、良いよ」

プツッ、と糸が切れ。

宙吊りになっていた令月は、くるりと一回転して、綺麗に着地。

同時に、天井裏に潜んでいたすぐりも、しゅたっ、と軽やかに降りてきた。

身のこなしが、相変わらず暗殺者のそれだ。

シルナがぶるぶる震えているというのに。

「お前ら、俺達に何か言うことは?」

俺は、しかめっ面で二人に聞いた。

しかし。

「あ、うん。魔導師排斥論者って何?」

違うだろ、馬鹿。

もっと他に言うべきことがあるだろ。

下校時刻を過ぎたのに、飽き足らず学生寮から抜け出してごめんなさいとか。

いつの間にか学院長室の天井裏に忍び込んで、盗み聞きしてごめんなさいとか。

宙吊りで現れて、シルナの度肝を抜かしてごめんなさいとか。

謝罪しろ。色々と。

しかしこいつらは、そのような謝罪は一切なく。

まるで悪びれもせず、けろっとして話に加わろうとしてきやがった。

一体何回、学生寮から脱走すれば気が済むんだ?

「今日は一体、何だって忍び込んだんだ?」

「え?『八千歳』が、『ねー今日忍び込まない?』って言うから…」

そんな、学校帰りにゲーセン行くみたいなノリで忍び込むな。

そして令月、お前もそれを了承するんじゃない。

「そしたら、案の定難しそーな話してたから。話に入れてもらおうと思って」

と、すぐり。

こいつら…。

「…何処から聞いてたんだ?」

「ナジュせんせーの、『成程、シャネオンに着いたら…』のところから」

初っ端から聞いてたんじゃないかよ。畜生。