…ところで。

結局、俺もシルナも、異次元世界はそれぞれのトラウマ世界…と言うか。

俺達の、触れられたくない傷口を抉る世界だった訳だよな。お互いに。

ってことは…。

「…今頃、あいつらも…」

「うん?」

「吐月達だよ。最初に入った四人と、あと元暗殺者組とナジュと…あいつらも今頃、トラウマ見せられてんのかな」

だとしたら…凄く辛いよな。

大人達はともかく、子供達二人は。

まだ記憶に新しい、過去の思い出したくないことを無理矢理突きつけられてるんだよな?

どうするんだ、令月もすぐりも。

シルナみたいに、今まで殺された人達が舞台に出てきて、悪口大会とか開かれてたら。

おまけにあいつら、勝手に魔法陣に飛び込んじゃったせいで。

二人して、異次元世界の突破法を知らないんだぞ。

それを知ってるのは、ナジュだけだ。

あとの六人は、異次元世界の脱出法を知らずに、今頃トラウマを刺激されるような世界にいるんだろう?

本当に大丈夫だろうかと、心配にもなる。

…しかし。

「どうかな…。そうとも限らないよ」

「え?」

「前にも言ったでしょ?異次元世界の在り方は様々なんだ」

「あぁ…」

賢者の石の持ち主の人生を、追体験させられるパターンもあるんだっけ?

俺達は今回、そっちのパターンじゃなかったけど…。

どっちにしても、異次元世界ってだけで嫌なのは変わらないがな。

「でも、持ち主の体験を追体験するだけなら、そんなに傷つけられることはない…か?」

少なくとも俺達みたいに、自分達のトラウマをピンポイントで殴られる、ってことはないんだよな?

「どうだろうね…そうだったら良いんだけど」

「…」

やけに悲観的だな、シルナ。

やっぱり、まだ異次元世界でのことを引き摺ってるのか。

「だって、賢者の石を手にするほど…『サンクチュアリ』に入るほどの、辛い体験があったから、彼らは『サンクチュアリ』に入ったんでしょう?」

「あ、そうか…」

「だとしたら…きっと辛い経験を追体験させられてるはずだよ」

…成程。

どちらに転んでも、結局傷つくであろうことに変わりはない、と。

おまけに彼らは、記憶を失った状態で追体験させられているのだという事実を、俺達はまだ知らなかった。

結局、異次元世界に入るってだけで、傷つかずに出られることはない。

「無事に、戻ってこいよ…」

俺は、この場にいない六人に向けて、そう呟いた。