「彼は酷い人間です。先程までの幾人もに渡る証言で、既に明らかになっているとは思いますが…。近くにいた私だからこそ分かることもあります。控えめに言って、彼は最低です」

…知ってる。

「シルナ・エインリーは、座敷牢に囚われていた私を助け出す…という名目で、あろうことか、私の身体に邪神を降ろし、邪神諸共、私を殺そうとしたのです」

知ってる。

「その為に犠牲になるなら…世界の為に犠牲になるなら、私はそれでも良かった。それなのに、邪神を降ろしたそのときになって、やっぱり心変わりして、自分の使命をかなぐり捨て…私に邪神を押し付けたまま、私の身体の中に、恐ろしい邪神を封じたのです」

知ってる。

「結果、元々不安定だった私は、新たな人格を作り出すことで、精神の安定を図る他ありませんでした…。こうして私は、一つの身体の中に、多くの人格を持つことになりました。私は、もう…普通の人間ですらなくなったのです。シルナ・エインリーのせいで」

知ってる。

「私自身の自由意志は奪われ、邪神をこの身に封じられたことによって、結果的に、シルナ・エインリーの傍から離れることが出来なくなりました。彼は私を支配し、利用し…監視しているのです」

知ってる。

「その後は、先程お話した通りです…。シルナ・エインリーが数々の悪行を働くのを、一番近くで見ていながら…私は、それを悪行だと認識することすら出来なくなっていました。シルナ・エインリーによって、洗脳されていたからです。彼のねじ曲がった信念に、同調するようにと」

知ってる。

「私という人間こそが、シルナ・エインリーによる一番の被害者なのです…。私は、自分で選ぶことは出来ませんでした。これからもそうです。逃げることも、正しい道に戻ることも出来ません。彼に洗脳されているから、私は自動的に、彼の味方をするよう仕向けられているのです」

知ってる。

「私は、ここにいる全ての…いえ、全世界にいる、シルナ・エインリーの被害者の代表です。彼の誤った選択のせいで、傷つけられた者の代表です」

知ってる。

「それなのにシルナ・エインリーは…あの悪党は、自分が犯した罪を反省することもなく、開き直って…これからも、多くの人々を傷つけるつもりでいます」

知ってる。

「私は…いえ、世界は。決してシルナ・エインリーを許しません。許してはいけないのです…何があっても」

…知ってるよ。

君に言われなくても、そんなことは。

私が、ずっと思ってることだ。

だから。

「…シルナ・エインリー」

羽久もどきは、観客席ではなく。

私に、視線を向けた。

「貴様は地獄に堕ちろ。永遠に…地獄の業火で焼かれてしまえ」