神殺しのクロノスタシスⅣ

「私はシルナ・エインリーとは別の価値観を持っていましたが、私はその信念を曲げられ、彼の価値観を無理矢理押し付けられました」

イレースちゃんもどきが、そう語った。

「そして彼に追い詰められ、今ではイーニシュフェルト魔導学院の教員として、彼に使われている立場です」

「ご自分の信念を曲げられて…。それは、さぞや辛いでしょう?」

「はい、とても辛いです…。傍で見ていると、彼の詐欺師のような手口が、よく分かります。優しい言葉で他人を騙し、籠絡し、洗脳する…彼の常套手段が」

…。

「彼の言葉は勿論、笑顔一つ、涙一つを取っても、それは彼にとって他人を利用する為の道具なのです。多くの生徒達が、シルナ・エインリーによって騙され、手駒にされています。私達は、それを見ていることしか出来ないんです」

「そうですか…」

「同じ教師として、彼の行いは信じられません。決して許してはいけないと思います」

「成程…ありがとうございます。では天音さん、あなたは、どう思われますか?」

羽久もどきが、天音君もどきにマイクを向ける。

「僕は…直接彼に何かされたという訳ではないですけど、でも彼のやっていることは、信じられないです」

天音君は、悲痛な面持ちで言った。

「イーニシュフェルト魔導学院のある土地は、自分の故郷の地なんですよね。それなのに…どうして、自分が裏切った人々が眠る墓標の上で、平気で笑ってられるんでしょう?」

…。

「学院に故郷と同じ名前をつけ、その墓標の上で、平気でへらへら笑い、菓子を食べて、惰眠を貪る…。どれもこれも、僕には信じられません。死んだ人に申し訳ないという気持ちは、少しもないんでしょうか?」

…。

「ありませんよね。申し訳ない気持ちがあるのなら、そんな厚かましいことが出来るはずがない。よくも、死者の魂を冒涜するような真似が出来たものだと思います…」

「本当に…。死んでいった人々は、忸怩たる思いで、この光景を見ているのでしょうね」

「そう思います。なんて厚顔無恥なんだろうと…。僕はイーニシュフェルトの里の皆さんとは面識はありませんが、でも彼らの気持ちを思うと…」

「分かります。きっと、とても辛い思いをしているでしょうね。…そして、あなたも今、シルナ・エインリーのせいで、辛い思いをしているのでしょう?ナジュさん」

「えぇ、そうですね」

羽久もどきは、今度はナジュ君もどきにターゲットを移した。