「…え」
 
いきなり現実が返ってきたようで、俺はびっくりした。

見下ろすと、俺は無駄に高級そうなスーツを身に着けていて。

そして、片手にじゃらじゃらした鍵の束を持っていた。

目の前には鉄格子があって、俺は鉄格子の外から、檻の中を見つめていた。

つまり、俺は檻の外にいる。

…檻の外?

そんなはずがない。俺は…私は、ずっと鉄格子の中にいて。

それを「あの人」が救ってくれ、

「…!」

俺は、頭を振って思考の沼から抜け出した。

違う。それは俺の記憶じゃない。

落ち着け。俺は俺だ。違う誰かじゃない。

落ち着け…。

そして、思い出せ。

俺は何をしにここにいる?ここは何処だ?何故ここにいる?

覚えている。

そう。俺は足を踏み入れたのだ。

あの、赤い魔法陣の中に。

魔封じの石…その欠片を取り戻す為に、自ら異次元世界への転移を試みたのだ。

俺達より先に、最初にあの魔法陣の中に足を踏み入れた四人は。

自分達が、魔法陣によって異次元世界に転送され。おまけに、魔封じの石の影響で、魔法が満足に使えないどころか記憶すら奪われており。

自分達が何処から来た何者なのか、という記憶さえ覚束ない状態にあったのだが。

そんなこと、このときの俺は、知る由もなかった。

その点俺は、異次元世界に強制転移させられてすぐ、転移させられる直前の記憶を思い出していた。

俺は魔封じの石を探す為に、ここに来たのだ。

つまりここは、魔封じの石が作り出した、架空の世界。

一緒に魔法陣に足を踏み入れた「あの人」…そう、シルナは。

シルナは言っていた。

この異次元世界は、魔封じの石を使った持ち主の意志を反映させた世界。

持ち主の意志次第で、どんな世界にでもなり得る。

そして、魔封じの石の持ち主にとって、魔導師である俺は、敵だ。

当然この世界に来た瞬間から、俺はこの世界に攻撃されているはず。

この世界で目にする全て、耳にする全て、会う人全てが、俺にとっては敵なのだ。

それを肝に銘じておかなくては。

そして、案の定。

「…」

俺は魔法を発動させようとして、失敗した。

魔力を込めても、何も反応しないのだ。

常に持ち歩いていた懐中時計も、まるで秒針が動いていない。

これじゃあ、何の為の時計だか。

ただの飾りだな。

もっとも、俺はこの懐中時計はさして使わな、

「…ちょっと。何突っ立ってるの?」




突然背後から話しかけられて、俺は思わず声が詰まりそうになった。