神殺しのクロノスタシスⅣ

…ようやくミーティングが終わり。

俺は、会議室から出た。

俺には何の記憶もないのに、何故かこの身体は、この建物を知っていた。

記憶にないのに、分かるのだ。

この奥に行ったら診療室、更に向こうはエレベーター、ここは2階のミーティング室…といった風に。

全く記憶はないはずなんだが…。

誰かの記憶を追体験しているのでなければ、俺は記憶喪失にでもなっているのか…?

…いや。

それは違う。

例え記憶喪失だったのだとしても、俺はこんなところで、こんなことをしている暇はないはずだ。

俺には、やるべきことが…。

しかし。

「先輩」

先程の後輩が、俺に声をかけてきた。

俺の身体は、勝手にその声に振り向いていた。

「どうした?」

「いや…。今日、お互い夜勤だろう?…良かったら、一緒にあの子の部屋に、遊びに行かないか?」

と、彼は俺に言った。

あの子の部屋…というのが誰のことか、

俺は分からなかったが、この身体は覚えていた。

「そうだな…。でも行くなら、本人に一度、尋ねてから行こう。疲れているなら休ませてやらないといけない」

「あぁ、分かったよ」

駄目だな。

勝手に喋ってる。俺の意志ではないのに。

「先輩、行ってきてもらえないか?俺、この後○○先生の診療に付き添わなきゃいけなくて」

「そうか。俺は巡回だから、ついでにあの子の部屋に行ってくる」

またしても、勝手に口が動いている。

看護師の知識も経験もないのに、一端にも巡回とは。

何も覚えていない俺が患者を見て、大丈夫なのだろうかと、ふと不安になる。

俺には看護に関する知識はないのだが…。

これもまた、身体が勝手に動いてくれるのだろうか?