神殺しのクロノスタシスⅣ

「はい…。我々看護師の前では、いつも気丈に振る舞っていますが…やはり、本音は…寂しいようです」

俺の口は、勝手にべらべらと喋っていた。

何を言ってるんだ、俺は?

何のことだ。

看護師って、俺がか?

それなりに人生は長いが、看護師になった記憶はない。

それなのに、俺の身体は勝手に、知らないことを口走っていた。

「身体のことも勿論ありますが…。精神面のサポートも欠かせません。時間のある限り、声をかけるように心掛けたほうが…」

「…そうですね」

自分では意味不明だが、話し合いに参加している。

まるで、自分の身体ではないようだ。

…いや。

この例えは、あながち間違いではない…のか?

俺は全く理解していないのに、この身体は、何もかも全てを把握している。

中身である俺の魂だけが、俺のもので。

身体は…恐らく、俺のものではない。

本来の持ち主が、何処かにいるはずだ。

俺じゃない誰かが。

その誰かの記憶や、体験を…追体験させられているのか?

そうでなければ、この状況について理解が出来ない。

カルテや、検査結果用紙を囲みながら、白衣を着たメンバーが一堂に揃っている。

床も天井も壁も白くて、明るく、清潔感がある。

ここは恐らく、病院か、何処かしらの療養施設なのだろう。

そして俺は、その病院に入院(?)している患者について、同僚と話し合っている。

多分そういう状況なのだ。

その証拠に、よく見たら、白衣を着ている人々の胸元に、全員同じ形の名札が留めてある。

そこに、役職名も書いてあった。

医師、臨床検査技師、理学療法士、臨床心理士、等々。

先程俺に声をかけてきた後輩の名札には、看護師、と書いてあった。

そして、俺の白衣にも名札がついている。

その名札には、俺の知らない名前と、看護師、という役職名が記載されていた。

やはり俺は看護師で、この医療チームの一員なのだ。

勿論、全く記憶にない。

ならば。

俺はやはり、想定外の事態に巻き込まれてしまったようだ。