神殺しのクロノスタシスⅣ

「…の容態は、見てのとおり、一ヶ月前に比べて更に悪化している。血液検査の結果から見ても…」

「特に…の値が低くて、薬ではもう抑えきれなくなっており…」

「それについては、…の薬に変えることで何とか対策を…」

「でも、彼女の容態から見ても、最早薬を変えても大した効果は得られないかと…」

…と。

目の前の白衣集団は、一枚のカルテを前に、深刻そうな表情で語り合っていた。

さっきまで、全く状況が掴めなかったが。

何となく分かってきた。

どうやら俺は今、このカルテにある少女の治療に当たる、医療チームのメンバーの一人らしい。

俺がどういう立場なのかは分からないが、このチームに混ぜられている以上。

俺にも、何らかの役割はあるのだろう。

その割には、何も口を挟めていないが…。

誰も俺に話を振ってこない。

まぁ、話しかけられても答えに困るので、話しかけられない方が良いのだが。

しかし。

同じく、先程俺のことを「先輩」と呼び、声をかけてきた青年。

彼もまた、話し合いにはほとんど参加することなく、黙って聞いていた。

彼と俺は、どういう立場なんだろう。

いや、そんなことより。

俺はここで、一体何をやって…。

と、思ったそのとき。

「…それで、二人共」

何やら、検査の結果について話し合っていたメンバー達が、くるりとこちらを向いた。

正しくは、俺と、先程の後輩の二人を。

「普段の様子は、どんな感じですか?何か気になることはありませんか」

白衣チームの中でも、ひときわ貫禄のある中年男性がそう尋ねてきた。

…しまった。

恐れていたことが起きたぞ。

俺に話を振られても、俺は今、自分について気になることの方が多過ぎて、君達が何を話しているのかすら分かってない。

普段の様子って、何の…。

と、思ったら。

「相変わらずです…。自分の具合が悪いこと、気づいてないはずがないんですが…。いつ見ても、明るい調子で」

俺の代わりに、後輩が答えてくれた。

有り難い。

しかし、それも束の間。

「体調を聞いても、返事はいつも『大丈夫』って…。ですよね、先輩」

今度は後輩が、俺に同意を求めてきた。

そう言われても、俺には一体何の話か分からないんだが。

一体、どうやってこの窮地を乗り越えたものか、と思った。

そのとき。

俺は、勝手に口を開いていた。