神殺しのクロノスタシスⅣ

そうでなければ、有り得ない。

魔導師の数も少なく、使える魔法の数も少ない。

魔導理論も確立されていなくて、それ故に魔法の精度も甘い。

だから、たかが水魔法程度で天狗になれるのだ。

魔法の概念が浸透していなければ、確かにそうなるだろう。

何せ、何もないところから、水を作り出せるのだから。

魔法なんて知らない人からすれば、びっくりするだろうし、凄い力だと思うだろう。

成程、このお兄さん、何で魔導師の癖に食事をしているのかと思ったら。

この人は、自分の保有魔力だけで自給自足出来るほど、魔力が豊富ではないのだ。

素晴らしい魔導師だ、と褒め称えられてはいるけれど。

それは、この世界の価値基準で考えたら、の話。

俺の元いた世界の基準で考えたら、精々下の中くらいの魔導師。

文字通り、次元が違うのだ。

理解したけど、しかし納得は行かない。

そんな大したことない魔導師が、感謝状をもらってドヤ顔晒してるなんて。

元いた世界の基準を知っている身としては、失笑モノと言うか…。

幼稚園児が、「上手な絵を描けましたね〜」と、幼稚園の先生から表彰してもらってるみたいな。

そんな気分。

あー、はいはい。良かったですねー(棒読み)。

そんなことで天狗になるとは、恥ずかしくないんだろうか。

恥ずかしくないんだろうな。そういう世界に住んでるんだし。

「いやぁ、でも、魔導師もそれなりに大変だよ」

と、お兄さんはドヤ顔のまま言った。

「色々勉強しなきゃならないことも多いし、結構複雑なんだよ。魔法の勉強って。…普通の学生の勉強とは、訳が違うからさぁ」

チラッ、とお兄さんはこちらを向いて言った。

嘲りの目だった。

「まぁ、一般教育でさえ躓いてるお前には、到底理解出来ないだろうけど?」

お前、異空間に吹き飛ばすぞ。

今魔法使えないから、出来ませんが。

お兄さんが、そんな嫌味を俺にぶつけてきたことから。

お兄さんの褒め言葉大会から、今度は俺への悪口大会に変わった。

「そうよねぇ。お兄ちゃんはこんなに優秀なのに…あんたと来たら、どうして全然ダメなのかしらね」

「こっちも恥ずかしいんだぞ。兄は優秀なのに、弟の方はどうなのかって、毎回聞かれる度に返事に困るんだ。どう取り繕ったって、お前に褒められるところなんて一つもないもんな」

「お前みたいなのが弟なんて、本当に恥だよ。せめて、人並みの成績くらい取れば良いのに。それさえ出来ないんだもんな。情けなくないのか?」

母、父、兄が順番に言った。

三人共、明らかに俺を馬鹿にし、侮蔑し、蔑み、嘲っていた。

「せめて成績だけでも少しはマシになるようにって、折角高いお金を出して、良い塾に通わせてるのに。その成果も、ちっとも出てないしね」

と、母。

え?あの塾って、そんなにお高い塾なんですか?

ゴミみたいなハゲ教師が授業やってるから、てっきり、安いだけが取り柄の塾なんだとばかり。

でも、これで分かった。

あのハゲ教師が、俺を過剰に馬鹿にしていた理由が。