神殺しのクロノスタシスⅣ

「はぁぁぁぁ!?たかだか水魔法を10分使っただけでバテるような魔導師の、何処が立派なんですか?そんなことで感謝状をもらうとか、どんだけ面の皮厚いんですか?頭大丈夫ですか?」

…と。

叫びたかったのに、声が出なかった。

なんて不便なんだ。この身体。

俺に出来たのは、無言で目を見開くことだけ。

びっくりし過ぎて、目も口も開いたまま、塞がりませんよ。

ここが、何処の時空の、どんな世界なのか知らないけど。

俺の元いた世界では、有り得ない出来事が起きている。

水魔法なんて、魔導適性を持った子供が、ちょっと魔導理論を齧るだけで使える、本当に基礎中の基礎魔法だ。

で、このお兄さんは、その水魔法が得意で。

得意な水魔法を、消火活動の為に使ったのは良いけど。

たかが10分程度、しかも住宅三棟の火事を、消防車が到着するまで、持ちこたえるのが精一杯で。

完全には、火を消し止められなかったんだろう?

燃えたのが、巨大なガス工場でした、とかでもない限り。

その辺の家屋の火事なら、俺なら一分足らずで消せる。

住人が避難してるなら、なおさら。

救助活動の必要がなく、火を消すだけなら簡単だ。

それなのに、このお兄さんは。

俺のいた世界なら、たかが学生でも出来そうなことを、こんなドヤ顔で語ってるのか?

おまけに、それで感謝状?

馬鹿らしくて、かける言葉が見つかりません。

見つけられたとしても、声に出せないから無意味なんですが。

水魔法全力で10分なんて、水魔法が大して得意という訳でもない俺でも、余裕で出来る。

ただ、やる気がないだけで。

何なら100分でも余裕。

水魔法だけで良いなら、100時間でも行ける。

100日やれって言われたら、ちょっと考えますよ。

でも、水魔法が得意な人なら、それくらい簡単にやってのけそうなものだが。

この人達は、俺の価値基準からしたら、とんでもなくレベルの低い話をしている。

いや、多分この人達だけじゃなくて。

この世界では、それが常識なのだ。

魔法の概念があまり浸透していない世界だ、と思った。