神殺しのクロノスタシスⅣ

「それで表彰されたのか?」

「まだだよ。でも、表彰って言うか…感謝状をもらえるらしいんだ」

「まぁ、凄いじゃない」

…。

…何の話してるんだろう?

空気的に、俺は会話に加わらない方が良い気がするが。

目の前で会話されると、全く無関心ではいられない。

感謝状?この青年が?

…そういえばこの人は、俺にとっては兄なんだっけ。

塾にいたハゲ教師も言ってたもんな。俺には兄がいる、みたいなことを…。

その兄が、こいつなのか。

ハゲ教師によれば、確かこいつ…魔導師なんだよな?

しかも、相当優秀な。

ん?でももしそうなら、何故一緒に食事をしてるんだ?

別に食べる必要なくないですか?

優秀な魔導師ともなれば、魔力量が豊富だから、食事の必要はないはすなのだが…。

しかし。

「ちょっと、お代わりしてくる」

「あら、それなら母さんが入れてあげるわ」

と、お兄さんが茶碗を持って立ち上がったのを、母親が制して、わざわざお代わりをよそってあげていた。

食べる必要がないどころか、お代わりしてる始末なんですが…。

どういうことなんですか、これは。本当に。

「ありがとう。今日はたくさん魔力使ったから、しっかり食べておかないといけなくてさ」

「良いのよ。そのお陰で感謝状までもらえるんだもの。なんて光栄なことかしら。たくさん食べなさい」

にこやかに会話する、兄と母。

たくさん魔力使った、って…。

それに、さっきからちょくちょく話題に上がってる言葉…。

「感謝状…?」

俺は、ボソッと呟くようにして聞いていた。

魔力使って感謝状って、どういうことですか。

すると。

あんなに、俺に対しては無関心を決め込んでいた癖に。

よくぞ聞いてくれたとばかりに、両親共に鼻息を荒くしてこちらを向いた。

は?

「この子ね、今日素晴らしい働きをしたってことで、感謝状をもらえることになったのよ」

母親は、まるで我が事のように喜び勇んでそう言った。

はぁ、そうなんですか。

素晴らしい働きっていうのは、何なんですかね。

「あぁ。○○町で火事が起きたらしいんだが、消防車より早く駆けつけて、消火活動に参加したんだ」

…は?

「そう、水魔法を使ってね。消防車の入りにくい細い路地だったから、俺が先行したんだ。お陰で、被害は住宅三棟が焼けるだけで済んだよ」

いや、三棟も燃やすまで、止められなかったんですか?

「俺は水魔法が一番得意だったからな。あんなに全力で魔法使ったのは初めてだよ」

「ね、立派でしょう?お陰で怪我人は一人も出なかったのよ」

それは良いことですけど。

でも、いや…。

…はい?

「消防車が着くまで、10分くらいあったけど…。もう、永遠に来ないかと思ったよ。それくらい疲れた」

「ふふ、お疲れ様」

「この英雄的な行いで、消防署から感謝状が出ることに決まったんだ。凄いだろう?」

…。

「本当にね、この子は、我が家の誇りだわ。ご近所さんも、口を揃えて褒めてくださるわ」

「鼻が高いよなぁ。身内から魔導師が、しかも、こんなに立派な魔導師が出るなんて」

そのとき、俺は。

頭の中が、それはぐるぐると回っていた。