神殺しのクロノスタシスⅣ

車は、立派なガレージに置いているのに。

古ぼけた自転車は、家屋の片隅に、隠すように停めた。

で、重たい学生鞄を担いで、無駄に広い玄関に入る。

この時点で、ぐったりと疲れている。

それでも身体に自由が効くなら、外に出て周囲を探索するのに。

俺の乏しい労働意欲は、勝手に動く身体のせいで見事に消し飛ばされ。

鍵を開けて、自宅らしき家屋に入った。

見覚えのない家なのに、ここが自分の家だと分かる。

無駄に広いなぁ…何だこの家。

玄関には、三足分の靴が揃えて置いてある。

つまりこの家には、今三人の住人がいるってことだろうか。

まぁ当てにならないか。一人が二足置いてる可能性もあるし。

俺は靴を揃えて置き、玄関に上がった。

何処に向かうのかと思ったら、リビング。

広々としたリビングは、何やらワイワイ賑わっていた。

「まぁ、本当?なんて凄いの」

「本当になぁ。お前は我が家の誇りだ」

「いやぁ…それほどでもないよ」

…?

人の声が、三種類聞こえる。

やっぱり三人が住んでるんだ。

声のした部屋に入ってみると、そこは広々としたリビングダイニングで。

そのダイニングテーブルに座って、三人が楽しげに食事中だった。

…あれ?俺邪魔だったっぽい?

しばし、ダイニングの入り口でぽかんと立っていると。

「…ん?」

ようやく、中年のおっさん(多分父親)が、俺の存在に気づいた。

「なんだ、お前帰ってきたのか」

自転車で40分もかけて、必死こいて帰ってきた息子(ではないけど)に対して。

お帰りと言うでもなく、この興味なさそうな一言。

お前の髪の毛も焼け野原にしてやろうか。

すると、釣られて母親も俺に気づき。

「あら、居たの?気づかなかったわ」

母親として、って言うか人として、どうなのかと思う発言が来た。

これには、俺も返す言葉がない。

「あんたの夕飯、キッチンに置いてるから。勝手に食べて」

「…」

随分な扱いじゃないですか。

しかし、夕飯ですか。

…いつ以来だろうな?そんなもの食べるの。

この身体には魔力も魔導適性もないから、食事の必要があるんだっけ。

それは、まぁ不可抗力として。

この扱いの悪さはどうしたことか。

夕食セルフサービスなんですか。

しかも、なんかわちゃわちゃと楽しそうに喋ってるところに、割って入るの凄く嫌なんですけど。

しかし、この身体は栄養を摂取しなければ動けないので、食べないことには仕方がない。

俺は、ラップもされずにキッチンに放置されている食事の皿を取って、テーブルに持ってきた。

どうも済みませんね。俺が入ってきて。

いっそ誰よりも堂々と、豪快に食べてやろうか。

と思うのに、俺は自分の意志に反して、一人縮こまるようにして、もそもそと食べ始めていた。

ちょっと、もっと堂々としてくださいよ。

その間、両親ともう一人、俺より歳上っぽい男性(多分兄だろう)は、楽しげにお喋りに夢中だった。