神殺しのクロノスタシスⅣ

…それなのに。

早くこの建物を出て、周囲の探索でも、と思っている俺の思いとは裏腹に。

この身体は、全く寄り道することなく。

真っ直ぐ、自宅らしき家屋に戻っていった。

くそ、真面目かこいつ。

俺がこんなに珍しく、労働意欲に満ちているというのに。

こんな仕打ちをされたんじゃ、折角のやる気がなくなってしまうじゃないですか。

元々乏しい労働力が、更に乏しくなっていく。

ちなみに、さっき散々馬鹿にされた、あのハゲ教師のいた建物。

やっぱり学校じゃなくて、塾だった。

建物を出たとき、看板が出てたよ。「○○進学塾」って。

あんな最低の教師がいる塾なんて、よく行ってると思いますよ、この身体の持ち主。

俺だったら、あんな教師がいる塾なんて速攻やめてやりますけど。

で、その塾を出て、若干使い古した自転車に乗り。

およそ40分かけて、自宅らしき家屋に辿り着いた。

自分の身体じゃない癖に、疲労感が半端じゃなかった。

冷静に考えてみて欲しい。

自転車で40分ですからね。

かなり遠いですよ。

しかも所々上り坂で、相当しんどかった。

普段から自転車なんて乗ることがなかったから、余計に。

こんなにしんどいんですね、自転車って…。太ももの筋肉がヤバいんですけど…。

ここまで遠い塾に、わざわざ自転車で通ってるなんて。

もしかして、この身体の持ち主一家は貧乏で。

息子を近くの塾に行かせる余裕がなく、わざわざ遠くにある、費用の安い塾に通わせることにしたのかなー、と。

それなら、教師の質があんなに悪いことも納得出来る。

そんな下衆の勘繰りをしていたら。

「…めっちゃ豪邸じゃないですか…」

住宅街の一角に、どーん、とばかりに建っている、ひときわ大きな家。

立派な門構えに、三階建てくらいの家が建っている。

外壁もまだ新しく、家屋と同じく広い庭には、大きな車が3台は軽く入れるような、でかいガレージが備わっている。

実際、ガレージには高級車らしきぴかぴか光る車が3台も停まっていた。

こんな車があるなら、塾くらい迎えに来てくれれば良いものを。

この身体の持ち主、何歳なんだろう?学ラン着てることだし、多分中高生なんだろう?

家々の状況にもよるが、中高生くらいなら、塾で遅くなるときは、親が迎えに来てくれても良いと思います。

それとも、どんなに遅くなろうが、自分で帰ってこいよ、と?

そういう方針の家なんですかね、この家は。

じゃあそこの高級車は、一体何の為に停まってるんですかね。

無用の長物なら、石でも投げつけてへこませてやろうか。

…と考えながら、しかし実行に移すことは出来ず。

俺は、自転車を押して門の中に入った。