「授業中にのんびりしてるとは、良いご身分だなぁ。そんなことが出来る成績か?」

はい?

確かに俺の授業に対する姿勢は、いつだって真面目なものとは言えないかもしれないが。

それは面倒臭いからであって、成績そのものは悪くなかったはず…。

…なのは、俺であって。

この身体の持ち主は、違うのか?

そう思って、俺は改めて手元のテキストを見た。

どうやら数学の問題のようだ。

ん?この問題文、なんか見覚えがあるぞ。

昔、習ったことがあるような気がする。

しかし、随分昔のことのような気が…。

それより俺は、別の分野を勉強して、

「お前は、優秀な魔導師のお兄さんと違って、魔法も使えない無能なんだから、まともに勉強くらいは出来ないと、恥ずかしくて外を歩けないだろう」

ハゲ教師は、馬鹿にしたような口調で。

俺にとって非常に有益な情報を口にした。

…そう、魔法、魔法だ。

俺が昔勉強していたのは、確かに数学も勉強していた時期もあったが。

それより俺は、魔法を勉強していたはず。

俺は魔法を使う、魔導師なのだ。

我ながら、何故失念していたのか、意味が分からない。

しかもよく考えたら、俺は空間魔法使いの魔導師じゃないか。

ならば、ここがどんな世界だろうと関係ない。

得意の空間魔法で、俺が元いた世界に帰れば良い。

…そのはずなのに。

何故か、俺の手元に杖はなく。

そして、魔法を発動することが出来なかった。

まるで、その機能をまるごと、奪われたかのように。

「全く。お前みたいな不出来な弟を持ったお兄さんが、気の毒でならないな」

ハゲ教師は、馬鹿にしたようにそう言い。

釣られて、他の生徒達も、どっと笑っていたけれど。

俺は、笑うどころではなかった。