不思議なことがあるものだ。

まさか、自分の身体を自分で動かせないなんて。

一体、誰が誰の意志で動かしてるんだろうなぁ?

でも、歩き出すとか声を出すとか、そういう大きな動きは出来なくても。

軽く小指を動かそうとか、首をぐるりと回してみようとか、そういう小さな動きなら自由に出来るのだ。

ある程度の自由は、認められているらしい。

しかし、状況を大きく変えるような、そんな動きは出来ない。

しようと思っても、身体が言うことを聞かないのだ。

まるで、何者かによって作られたレールの上を辿るよう、仕向けられているみたいだ。

…本当、不思議なことがあるもんですね。

まぁ、それならそれで、いっか。

と、俺は楽観的に納得した。

自由が効かないんだから、俺が何もしなくても、それは俺の責任ではないし。

やるべきこと、すべきことは、この身体が勝手にセミオートでやってくれるし。

じゃあ俺本人は、何もせず、成り行きに身を任せていれば良いってことじゃないか?

多分、何処かの誰かさんの記憶や体験を、追体験してるんだろう。

何でかは知らないけど。

俺、何やってたんだっけなぁ。

思い出すのが理想なんだが、思い出せないなら放っとけば良いや。

まぁ、なるようになるだろう。

…と、普段の俺ならそう思うんだろうけど。

今回は、そういう訳にはいかないんですよね。

だって、俺が成り行きに任せて、ボケーっと生きてるのはいつものことだけど。

でもそれは、あの人が…。

と、そこまで考えた、そのとき。

「おい、お前。まだぼんやりしてるのか?」

例のハゲ教師が、俺の方を見て呆れたように言った。