何で、こんなところに来たのか。
最初は、街に出て、あちこち歩いてみたのだが。
初めて見るもののはずなのに、この身体が覚えているのか、新鮮味はちっとも感じなくて。
さして、この世界がどういう世界なのかを知る、手がかりになるような場所も見つけられなかった。
そうこうしていたら、この身体が記憶している場所に、自然とやって来ていた。
導かれるように、ここに来た。
…勝手に…入って良い、のか?
良いよな?だって…今は叔父夫婦の家に居候中だけど。
もとは、この家に住んでいて…ここが実家な訳だから。
誰かいるだろうか?って、そもそも鍵は開いているだろうか?
開いてなかったら、ここまで来た甲斐がないが…。
しかし、そこは心配要らなかった。
この身体は、ちゃんと覚えていた。
この家の住人は、わざわざ部屋に鍵をかけるほどマメな人ではない。
ドアノブを回して、そっと扉を開ける。
やっぱり、開いてた。
お邪魔しますと言えば良いのか、ただいまと言えば良いのか。
一応自分の実家だから、お邪魔しますはおかしいか。
じゃあ。
「ただいま…」
と呟いて、部屋に足を踏み入れる。
記憶にはないが、初めて見た気はしなかった。
狭い玄関と廊下には、ゴミの山が積み上がっていた。
端的に言って、とても汚い部屋である。
玄関のたたきには、靴が何足も散乱している。
何人で住んでるんだと、思わず毒づきたくなるが。
一人だ。
俺はそこに靴を脱いで、部屋の中に入った。
部屋の奥から、馬鹿馬鹿しいバラエティ番組の音が聞こえてきた。
音の聞こえるリビングに向かうと、そこは玄関よりも汚かった。
足の踏み場もないほどに、脱ぎ捨てた服や、飲み残したペットボトル、空になったコンビニ弁当のゴミやビニール袋、雑誌の山なんかが散らばっている。
…片付けたい…。
俺だったら、一時間も耐えられないような部屋だ。
しかし、その部屋に住んでいる住人にとっては、どうでも良いことらしく。
ぐちゃぐちゃの部屋の中で、ボロボロのソファに寝そべって、缶ビール片手にテレビを眺めていた。
なんともだらしのない格好で、ビールの空き缶を周囲に転がしている、この女性こそ。
この世界の俺の、本当の母親であるらしい。
見たことも会ったこともない人なのに、分かるのだ。
あぁ、この人が自分の母親なんだって。
「…あ?何、あんた帰ってきたの?」
母親は、自分の息子が帰ってきたのを見て、どうでも良さそうにそう言った。
この母親相手では、感動の対面など望むべくもないな。
「いや…。様子を見に来ただけだよ」
と、俺は答えた。
本当は、もっと言ってやりたいことがあったのだが。
俺の身体が許したのは、たったそれだけの言葉だった。
「ふーん…」
俺がそう言うと、母親はやはりどうでも良さそうに呟いて、缶ビールを呷った。
「どうでも良いけど…あんたも、迷惑なもんよねぇ」
本当にどうでも良いんだ。
って言うかあなた、今、何て言った?
「まだ弟のところに世話んなってんでしょ?さっさと追い出せば良いのにさぁ…」
学校の、あの三人組も相当だったけれど。
この母親も、なかなかに救いようがないぞ。
最初は、街に出て、あちこち歩いてみたのだが。
初めて見るもののはずなのに、この身体が覚えているのか、新鮮味はちっとも感じなくて。
さして、この世界がどういう世界なのかを知る、手がかりになるような場所も見つけられなかった。
そうこうしていたら、この身体が記憶している場所に、自然とやって来ていた。
導かれるように、ここに来た。
…勝手に…入って良い、のか?
良いよな?だって…今は叔父夫婦の家に居候中だけど。
もとは、この家に住んでいて…ここが実家な訳だから。
誰かいるだろうか?って、そもそも鍵は開いているだろうか?
開いてなかったら、ここまで来た甲斐がないが…。
しかし、そこは心配要らなかった。
この身体は、ちゃんと覚えていた。
この家の住人は、わざわざ部屋に鍵をかけるほどマメな人ではない。
ドアノブを回して、そっと扉を開ける。
やっぱり、開いてた。
お邪魔しますと言えば良いのか、ただいまと言えば良いのか。
一応自分の実家だから、お邪魔しますはおかしいか。
じゃあ。
「ただいま…」
と呟いて、部屋に足を踏み入れる。
記憶にはないが、初めて見た気はしなかった。
狭い玄関と廊下には、ゴミの山が積み上がっていた。
端的に言って、とても汚い部屋である。
玄関のたたきには、靴が何足も散乱している。
何人で住んでるんだと、思わず毒づきたくなるが。
一人だ。
俺はそこに靴を脱いで、部屋の中に入った。
部屋の奥から、馬鹿馬鹿しいバラエティ番組の音が聞こえてきた。
音の聞こえるリビングに向かうと、そこは玄関よりも汚かった。
足の踏み場もないほどに、脱ぎ捨てた服や、飲み残したペットボトル、空になったコンビニ弁当のゴミやビニール袋、雑誌の山なんかが散らばっている。
…片付けたい…。
俺だったら、一時間も耐えられないような部屋だ。
しかし、その部屋に住んでいる住人にとっては、どうでも良いことらしく。
ぐちゃぐちゃの部屋の中で、ボロボロのソファに寝そべって、缶ビール片手にテレビを眺めていた。
なんともだらしのない格好で、ビールの空き缶を周囲に転がしている、この女性こそ。
この世界の俺の、本当の母親であるらしい。
見たことも会ったこともない人なのに、分かるのだ。
あぁ、この人が自分の母親なんだって。
「…あ?何、あんた帰ってきたの?」
母親は、自分の息子が帰ってきたのを見て、どうでも良さそうにそう言った。
この母親相手では、感動の対面など望むべくもないな。
「いや…。様子を見に来ただけだよ」
と、俺は答えた。
本当は、もっと言ってやりたいことがあったのだが。
俺の身体が許したのは、たったそれだけの言葉だった。
「ふーん…」
俺がそう言うと、母親はやはりどうでも良さそうに呟いて、缶ビールを呷った。
「どうでも良いけど…あんたも、迷惑なもんよねぇ」
本当にどうでも良いんだ。
って言うかあなた、今、何て言った?
「まだ弟のところに世話んなってんでしょ?さっさと追い出せば良いのにさぁ…」
学校の、あの三人組も相当だったけれど。
この母親も、なかなかに救いようがないぞ。


