神殺しのクロノスタシスⅣ

「夜間の間に侵入…か。夜間と言える根拠は?昼間の間に、乗客の誰かが、爆発物を線路に仕込んでいた可能性は?」

と、無闇が尋ねた。

確かに。

夜間に忍び込むより、昼間のうちに乗客に紛れて、爆弾を仕込む方が、楽っちゃ楽だ。

いや、むしろ昼間は人目につくから、敢えて夜間にしたとか?

「いえ、毎晩終電の後に、列車内や線路内の確認作業をしているので。怪しいものがあれば、全て回収する手筈になっているのです」

と、駅長さんは答えた。

そうなんだ。

そこまで、セキュリティは甘くないということか。

「そして、昨晩の点検では、怪しいものは何も見つかりませんでした」

そうか。

じゃあ犯人は、終電後の点検も承知の上で、周到に準備をし。

点検が終わり、駅員達が撤収した頃を見計らって、こっそり線路内に入り込み。

爆発物を仕掛けて、その場を去り。

朝になるのを待って、起爆した…ってことだな。

どうやら犯人は、線路を壊すことが目的だったようだな。

犯人が現場にいなかったのなら、使われたのは遠隔操作式か、時限式の爆弾。

任意のタイミングで、いつでも起爆出来たはず。

つまり、俺がさっき考えた、最悪のタイミング…。

朝のピーク時に起爆しようと思えば、出来たはずなのだ。

しかし犯人はそれをせず、敢えて人のいない時間帯に起爆させた。

人を殺す意志はなかった、ということだ。

だからって、線路を壊して良いのかと聞かれたら、そんな訳ないけど。

見てみろ、その悪党のせいで、どれだけの人間が迷惑を被っているか。

危うく、ヘーゼルも怪我をしかねないところだったんだぞ。

おまけに、遥々聖魔騎士団から、エリュティアと無闇まで駆り出された。

大悪党だ。

「成程ね…。じゃあ、現時点では、犯人は分からない…と」

「…面目次第もございません…」

駅長さんは、またしても深々と頭を下げたが。

「いやいや、あなたが悪いんじゃないから…」

「いえ、私の管理不足のせいで、このような事態を招いてしまい…」

もう、「切腹しろ」と言われたら、本気で実行しかねないほど、申し訳無さそうに頭を下げる駅長さん。

気の毒過ぎて、見ていられない。

恐らく、シルナも俺と同じことを思ったのだろう。

「羽久、お願い出来る?」

と、尋ねてきた。

「当たり前だ」

そう答えて、俺は杖を取り出した。

「駅長さん。悪いが、線路内にいる作業員を全員撤収させてもらえないか?」

俺は、駅長さんにそう言った。

「え…?で、ですが…復旧作業を…」

「大丈夫だ。何の為に、聖魔騎士団魔導部隊が来たと思ってる?すぐに『復旧』してみせるよ」

「それに、爆発が起きたのなら、まだ崩落や倒壊の危険もある。後のことは、我々に任せて欲しい」

俺と無闇が、続けてそう言った。

その通り。

折角、今のところ怪我人はゼロで抑えられているのだ。

この後、二次災害で怪我人が出ました、なんて事態に発展したら、目も当てられない。

「わ、分かりました…。魔導師様が、そう仰るなら…」

だから、「様」はやめろって。