神殺しのクロノスタシスⅣ

「本当に…何であの子だけ、可哀想な目にばかり遭うのかしら。今日だって…またいじめられていたのよ」

と、叔母さんが悲しそうに言った。

カツアゲされた挙げ句、腹パンまで食らったもんなぁ。

あれはやり過ぎだよな。刑事事件だ。

「そうだなぁ…この地元じゃ、あいつの境遇を知らない奴はいない。ろくでなしの母親のせいで、小学校の頃からずっといじめられてたんだから」

そうなんだ。

小学校のときから…。成程、それで地元の高校でも、エスカレーター式にいじめが続いていて…。

今では、いじめられることが当たり前のようになっている。

そんなエスカレーターは嫌だ。

「地元の子がいない、市外の高校に転校したらって、何度も言ってるんだけど…」

「遠慮してるんだろう…。市外となると交通費もかかるし、なまじ今通ってるのが、学費の安い公立だから…」

成程、それで俺は、黙っていじめを受け入れていたのだ。

本来なら、俺は高校にも行かせてもらえず、母親に貢ぐ為に、中卒で働かせられるところだった。

そこを叔父夫婦が助けてくれて、家に引き取ってもらって。

生活費の工面と、加えて地元の公立高校とはいえ、学費まで面倒見てもらって。

そのことに引け目を感じているから、これ以上の迷惑はかけられないと思って、転校を頑なに拒否。

自分が我慢すれば良いという思考で、いじめられることを受け入れている。

だから俺は昼間、あの三人のクラスメイトに、反論も出来ずに言いなりになっていたのだ。

自分が逆らって面倒を起こせば、自分の世話をしてくれている叔父夫婦に、迷惑を掛けるから、と。

…非常に切ない事情である。

「私達に遠慮しなくても良いのに…。我慢ばかりして、いつか潰れてしまわないか心配だわ」

叔母さんは、そう言うけれど。

だからって、実子でもないのに親子のように甘えることは出来ない。

ましてや叔父夫婦には、実の子である娘がいるのだ。

当然、厄介な母親を持つ甥っ子より、実の娘の方が可愛いに決まっている。

…複雑な家庭事情だ。

悪いのは、金遣いの荒いらしい、実の母親なんだけど。

これ以上、自分のことで頭を悩ませる叔父夫婦の会話を盗み聞きするのも躊躇われ。

俺は、気づかれないよう、そっとその場を離れた。

そして、外に出ることもやめた。

二人が起きているのなら、今脱走したら、バレる可能性がある。

仕方なく、自室に戻るしかなかった。