神殺しのクロノスタシスⅣ

「…そろそろ、良いかな」

俺は一人呟いて、ベッドから起き上がった。

時刻は、午前一時近くになっている。

そろそろ、家族も寝静まった頃だろうと思ったのだ。

今がどういう状況なのかは分からないが。

とにかく動き出さないことには、何も始まらない。

俺はベッドを出て、こっそり部屋の扉を開けた。

外に出るつもりだった。

心配要らない。深夜徘徊なら、慣れたものだ。

雪刃時代に、散々やっている。

とにかく外に出て、少しでも分かることを増やし、状況を把握しようと思ったのだ。

俺は出来るだけ音を立てないように、階段を降りた。

すると。

「…!」

とっくに、家族は寝室に戻って眠っているとばかり思っていたが。

リビングダイニングに通じる扉からは、光が漏れていた。

どうやら、まだ起きているらしい。

えらく宵っ張りだな。

話し声が聞こえる。

起きているのは…叔父と叔母の二人のようだ。

俺は、そっと扉の近くに近寄った。

すると、話し声がよりはっきり聞こえてきた。

「昼間、うちの馬鹿姉が、また金の無心に電話してきたよ」

叔父さんが、呆れたような声でそう言っていた。

「またなの?この間も、家賃が足りないからって…」

「あぁ。今度は友達に借金を返さないといけないんだと。全く…断っても断ってもキリがない」

叔父さんの言う、うちの馬鹿姉っていうのは…。

もしかして…俺の…。

「本当にね…。いつまでたってもこんな調子じゃ、やっぱりあの子をお義姉さんの家に返す訳にはいかないわね」

「そうだな。今日も電話のとき言ってたよ、息子を返せってな。返したところで、学校やめさせて働かせるつもりなのは、分かりきってる」

…やっぱり、俺のこと…だよな?

記憶はないが、これは自分のことだという確信がある。

俺にはちゃんと母親がいて、生まれ育った実家もあるけれど。

母親が、高校へは行かせない、すぐ働かせて家に金を入れさせると豪語していたものだから。

見かねた叔父夫婦が俺を引き取り、近くの高校に通わせてくれているのだ。

それが、俺の今の現状なのだ。

自分のことではないはずなのに、なんとも気の毒な境遇で、可哀想になってくる。