目を覚ましたときは、ほとんど何も覚えていなかった。
だが、何のかんのされながらも、目を覚ましてから時間が経ち。
俺は、自分が何者であるかを思い出していた。
そして同時に、自分の相棒の名前も。
何でこんなところにいるのか、どうしてこんなところに来ることになったのかは、相変わらず思い出せなかったが。
それでも、自分のことは思い出せた。
だからまずは、自分が落ち着けるように。
心強い相棒の名前を呼んでみたのだ。
「彼」が姿を現してくれれば、俺は、このちぐはぐだらけの状況で、自分のアイデンティティを取り戻せると思った。
彼だけは、俺の名前を呼んでくれるだろうから。
…しかし。
「…」
いつまでたっても、彼が姿を現すことはなかった。
…やっぱり、駄目か。
何となく、覚悟はしていたのだ。
いつもなら、ベルフェゴールは俺が呼ぶまでもなく姿を現し、俺の頭の上や肩の上に乗って、偉そうに威張っている。
とは言っても、如何せん大きさが…手のひらサイズなので、いくら威張っていても、微笑ましい以外の何物でもないのだが。
それなのに、俺がこの不思議な世界に来てからというもの。
ベルフェゴールは、一度も俺の前に現れない。
俺が昼間、憎ったらしい三人組にイビられているのに出てこなかったから。
何となく…覚悟はしていたんだけど。
俺が理不尽に痛めつけられているのを見たら、間違いなくベルフェゴールは黙っていないはずだ。
それなのに、彼は出てこなかった。
ということは、彼は出てこないのではなく…出てこられないのだ。
それに、俺はこの世界に来てから…ベルフェゴールの気配を感じない。
彼は俺の身体の奥底、血と魂によって契約している仲だ。
だから、普段は常に、身体の奥にベルフェゴールの存在を感じていた。
それなのに今、俺の中にベルフェゴールの存在を感じない。
その部分だけ、ぽっかりと抜け落ちているのだ。
まるで、穴を開けられたみたいに。
ベルフェゴールがいた部分だけ、アイスピックで抉り出したように…。
だから俺は今、こんなにも身体の奥が空虚なのだ。
あるはずべきものが、そこにないから。
その事実に、とてつもない虚無感を感じる。
…そして。
「…雪刃(ゆきば)、か?」
俺は、その呪わしい名前を口にした。
俺の、魂の一部には。
かつて俺を支配し、脅迫し、人を殺すことを強要していた、あの悪魔のような魔物。
雪刃の残り香のようなものが、未だに残っている。
だから、ベルフェゴールとの血の盟約が薄れている今。
雪刃が、ここぞとばかりに俺の身体を取り戻さんとしているのでは…と。
そんな恐ろしいことを考えたのだが。
俺が名前を呼んでも、何も、誰も、姿どころか気配すら感じなかった。
かつて身体の奥底に潜んでいた、禍々しい雪刃の気配も感じない。
…じゃあ、そういうことではないのだ。
ベルフェゴールも、雪刃も…今、俺の中にはいないのだ。
…だとしたら、これは相当不味い状況だ。
だが、何のかんのされながらも、目を覚ましてから時間が経ち。
俺は、自分が何者であるかを思い出していた。
そして同時に、自分の相棒の名前も。
何でこんなところにいるのか、どうしてこんなところに来ることになったのかは、相変わらず思い出せなかったが。
それでも、自分のことは思い出せた。
だからまずは、自分が落ち着けるように。
心強い相棒の名前を呼んでみたのだ。
「彼」が姿を現してくれれば、俺は、このちぐはぐだらけの状況で、自分のアイデンティティを取り戻せると思った。
彼だけは、俺の名前を呼んでくれるだろうから。
…しかし。
「…」
いつまでたっても、彼が姿を現すことはなかった。
…やっぱり、駄目か。
何となく、覚悟はしていたのだ。
いつもなら、ベルフェゴールは俺が呼ぶまでもなく姿を現し、俺の頭の上や肩の上に乗って、偉そうに威張っている。
とは言っても、如何せん大きさが…手のひらサイズなので、いくら威張っていても、微笑ましい以外の何物でもないのだが。
それなのに、俺がこの不思議な世界に来てからというもの。
ベルフェゴールは、一度も俺の前に現れない。
俺が昼間、憎ったらしい三人組にイビられているのに出てこなかったから。
何となく…覚悟はしていたんだけど。
俺が理不尽に痛めつけられているのを見たら、間違いなくベルフェゴールは黙っていないはずだ。
それなのに、彼は出てこなかった。
ということは、彼は出てこないのではなく…出てこられないのだ。
それに、俺はこの世界に来てから…ベルフェゴールの気配を感じない。
彼は俺の身体の奥底、血と魂によって契約している仲だ。
だから、普段は常に、身体の奥にベルフェゴールの存在を感じていた。
それなのに今、俺の中にベルフェゴールの存在を感じない。
その部分だけ、ぽっかりと抜け落ちているのだ。
まるで、穴を開けられたみたいに。
ベルフェゴールがいた部分だけ、アイスピックで抉り出したように…。
だから俺は今、こんなにも身体の奥が空虚なのだ。
あるはずべきものが、そこにないから。
その事実に、とてつもない虚無感を感じる。
…そして。
「…雪刃(ゆきば)、か?」
俺は、その呪わしい名前を口にした。
俺の、魂の一部には。
かつて俺を支配し、脅迫し、人を殺すことを強要していた、あの悪魔のような魔物。
雪刃の残り香のようなものが、未だに残っている。
だから、ベルフェゴールとの血の盟約が薄れている今。
雪刃が、ここぞとばかりに俺の身体を取り戻さんとしているのでは…と。
そんな恐ろしいことを考えたのだが。
俺が名前を呼んでも、何も、誰も、姿どころか気配すら感じなかった。
かつて身体の奥底に潜んでいた、禍々しい雪刃の気配も感じない。
…じゃあ、そういうことではないのだ。
ベルフェゴールも、雪刃も…今、俺の中にはいないのだ。
…だとしたら、これは相当不味い状況だ。


