神殺しのクロノスタシスⅣ

「こちらです…」

と、駅長さんに説明されるまでもなく。

現場を見れば、一目瞭然だった。

「これは…酷いね」

思わず溢したシルナの一言に、皆が同意した。

線路が。

列車が走るはずの線路が、木っ端微塵になっている。

まるで、そこだけ隕石でも落ちたんじゃないのか?と思うほど。

線路の一部、およそ100メートルほどの線路が、ボロボロに砕けている。

辺りには、破壊された線路の破片や瓦礫が散らばり。

ヘルメットを被った作業員達が、シャベルを使って、必死に瓦礫を撤去していた。

しかし、ここまで破壊されていては。

シャベルで瓦礫を全て撤去しようと思えば、日が暮れるどころか、翌朝を迎えても、まだ瓦礫の方が多いだろう。

成程、これじゃあ列車は走れない。

今日中どころか、明日も無理かもしれないな。

それに、瓦礫を退かしたところで、また線路を繋ぎ直さなければならない。

明日どころか、明々後日も多分無理。

「一体、どうしてこんなことに?」

と、エリュティアが尋ねた。

それ、切実に俺も知りたい。

すると駅長さんは、一同が驚愕する、まさかの事実を述べた。

「それが…。その…。私も現場を見た訳ではないのですが…。状況から察するに、何者かが爆発物を持ち込み、故意に線路を破壊したものと思われます」

「は…!?」

爆発物を持ち込んで…破壊した、だと?

「えっ…。だっ…大丈夫なの?それ。怪我人は?」

シルナが、慌てて尋ねた。

まず気にするのは、人命だ。

本当に線路が爆破されたなら、その爆破に巻き込まれて、怪我をした人がいるかもしれない。

ましてや、この規模の爆発だ。

巻き込まれれば、怪我だけでは済まないかもしれない。

最悪、死者が出ていても…。

しかし。

「爆破されたのは、始発より前の時刻だったので、乗客は一人もいませんでした。駅員も、当直の駅員がいましたが…駅員室にいたので、誰も巻き込まれていません」

それを聞いて、心底安心した。

確かにこれは一大事だが、しかし怪我人や、ましてや死人が出なかったのは、不幸中の幸いというもの。

「じゃあ、怪我人はいなかったんだね?」

「はい。一人も…。精々、爆破音を聞いて駆けつけた当直の駅員が、現場を見て腰を抜かしたくらいで…」

「…はは…。それは、無理もないよ…」

その当直の駅員は、気の毒だったが。

腰を抜かしたくらいなら、可愛いものだ。

無事で良かった。

それで、怪我人がいないことが確認出来たなら。

次に確かめるべきことは…。

「その、爆発物を持ち込んだ人物というのは?」

俺が聞く前に、すかさず無闇が尋ねた。

聞かれると思っていた、というように、駅長さんは頷いた。

「はい…。それが、爆破音を聞いた駅員が、現場に駆けつけたときには…既に誰もいなくなっていて…」

「…」

「現場に、爆発物と見られる残骸が残っていたので…。恐らく、夜間に何者かが線路内に忍び込み、爆発物を仕掛け…」

「朝になるのを待って、ドカン…ってことか」

「はい、恐らくは…」

成程ね。

怪我人が出なくて良かった、と先程言ったが。

本当に良かったと思う。

もし、少しでも時間帯がズレていたら。

それこそ朝のラッシュ時に、爆破されていたら。

その列車の中には、きっとヘーゼルや、他の生徒達も乗っていたかもしれない。

それどころじゃない、無辜のシャネオン市民が、大勢犠牲になっていたかもしれないのだ。

そう思うと、背中が冷たくなる。