神殺しのクロノスタシスⅣ

ようやく、学校からも、あの三人からも解放されたのだ。

ここが何処なのか、自分は一体どんな状況に置かれているのか、色々確認したいことがあった。

しかし。

「…疲れた…」 

俺は、ポツリとそう呟いた。

疲れた?

いや、確かに疲れたけど、今は休むことより、状況を把握することの方が先のはず。

それなのに俺の足は、勝手に歩き始めていた。

え、ちょっと、何処に行くんですか?

第一、俺に行くところなんて…と、思っていたが。

20分ほど歩いて、日が暮れてきた頃。

俺は、戸建ての一軒家の玄関に立っていた。

…足が導くまま、ここまで歩いてきたけど。

ここが俺の家なのか?

相変わらず、全く見覚えがないが。

本能が、この家を目指し、そして玄関の扉を掴んでいた。

ほ、本当にこの家なんだよな?

もし間違っていたら、ただの不法侵入者だぞ。

しかし、本能には逆らえず、その家に入る。

見たことはないはずなのに、俺の身体は勝手を覚えていて。

靴を脱ぎ、手を洗う為にバスルームに向かおうと、廊下をすたすた歩く。

廊下を抜けると、広いリビングダイニングに繋がっていて。

ダイニングキッチンで、忙しく動いている女性と、目が合った。

俺は勿論、その人に見覚えはなかった。

これで、相手も俺に見覚えがなかったら、警察沙汰不可避。

しかし。

「あら、お帰り…。遅かったのね」

女性は柔らかい笑顔を浮かべて、俺にそう言った。

あ、はい。

良かった。知り合いのようだ。

お帰りと言われたってことは、俺はこの家に住んでるってことなんだろう。

じゃあこの人は、もしかして俺の母親…?かと思ったが。

「叔母さん…ただいま」

俺は、その女性のことを無意識に、「叔母さん」と呼んでいた。

そして、叔母さんと呼ばれた女性も、異論なくその呼称を受け入れていた。

母親じゃなくて、叔母なのか。

何で、叔母の家に帰ってきてるんだ?

…下宿?

頭の中は疑問符でいっぱいだったが。

叔母さんは、そんな俺の内心など知る由もなく。

「お弁当箱、洗っちゃうから出してくれる?」

と言った。

え、お弁当箱?

もしかして、もしかしなくても、お弁当を作ってくれたのはあなたですか。

俺は、学生鞄の中からお弁当箱を取り出したけど。

一口も食べなかったお弁当の中身は、ゴミ箱に捨てられ。

その挙げ句、乱暴に扱われたお弁当箱の蓋は、ヒビが入って割れていた。

そんな有様のお弁当箱を渡すのは、とても心苦しかったが。

身体が、勝手に動いていた。