それだけではない。

俺は、肉まんが売り切れと聞いて、どうしたら良いのかを必死に考えていた。

いや、そんなこと考えなくても。

別に、見知らぬ他人の為の肉まんなんだし。

売り切れなら仕方ないんだから、「あ、そうですか」で済ませれば良い。

今日肉まんを食べなければ、彼が死んでしまうという訳でもなし。

それなのに俺は、必死に代案を考えていた。

「15分くらい待ってもらえたら、作りますけど…」

「あ、いえ…それなら、結構です…」

店員さんの申し出を、俺は却下した。

15分も待っていたら、学校に帰る頃には、昼休みが終わってしまうと思ったのだ。

昼休みが何時までなのか、知らないはずなのに。

と言うか、今は何時なんだ?

それすら分かってない。

「じゃあ、その…代わりに、あんまんください…」

俺は、反射的にそう口走っていた。

肉まんがないから、代わりにあんまんって、それはあまり代わりにはならないような気がしたが。

手ぶらで帰るよりは、何かあった方が良いと思ったのだ。

今までの経験で。

…今までの経験って、俺は彼らにパシリにされるのは、初めてのはずなのに。

何でこんな、熟練のパシラーみたいなことを考えているのか。

…パシラーって何だ?

「はーい。お会計こちらになりまーす」

相変わらず、あまり態度が良いとは言えない店員に、買ったものを袋に詰めてもらい。

店員さんは、値段の表示されたディスプレイを指差した。

あ、しまった。財布。

買いに来たのは良いが、俺、財布持ってたっけ…?

しかし、その心配は必要なかった。

俺は反射的に、制服のポケットに手を入れていた。

そこには、ちゃんと財布が入っていた。

あ、良かった。

俺は財布の中にあったお金で、会計を済ませ。

急いで学校へと戻った。

勿論、途中で俺が道に迷うことはなかった。