時刻は、午前7時過ぎ。

生徒が登校するには、まだ早い時間のはず。

教師達は全員ここにいるし…。

訪ねてきたのは、一体何者だ?

「はい?」

イレースが、ノックされた扉を開ける。

すると、そこにいたのは。

「あのぅ…。おはようごさいます…」

「え…。ユイト君?」

ユイト・ランドルフ。

学生寮で、令月のルームメイトに当たる人物だ。

何かと迷惑をかけてしまっている彼が、今日はまたしても、不安そうな顔をして、そこにいた。

…嫌な予感がする。

「どうしたの?何かあった?」

シルナが慌ててユイトに駆け寄って、声をかける。

すると、ユイトは。

一枚の半紙を、そっと差し出しながら言った。

「朝起きたら、令月君がいなくて…」

ユイトのその一言で、俺は頭から血の気が引いた。

…まさか。

「その…この置き手紙が、ゴザの上に…」

「えっ…」

俺達は、ユイトが手渡した半紙の置き手紙を覗き込む。

するとそこには、筆で書かれた綺麗な行書体で。

『年末には帰ります。』

…とだけ。記されていた。

…。

「…一人暮らしの学生みたいですね」

ポツン、とナジュが呟いたきり。

一同、無言であった。

あ、あいつ…。まさか…まさかとは思うが…。

も、もし俺の今の仮説が正しいとしたら、あいつは今頃…。

ふつふつと胸の奥に滾るものが湧いてきた、そのとき。

更に、別の生徒が、学院長室にやって来た。

「あ、あのぅ…。学院長先生…」

「な、何…?」

見覚えがある。あの生徒。

確か、すぐりのルームメイト…。

ますます、頭から血の気が引いていくのか分かる。

「今朝、すぐり君がいなくて…。代わりに、ゴザの上に置き手紙があって…」

と、差し出してくるのは、やっぱり半紙に、今度は筆ペンで。

『ちょっと異次元旅行行ってきま〜す。
追伸 ナジュせんせー、ツキナへの言い訳宜しく〜。』

と、軽いノリで記されていた。

「ちょっと県外まで遊びに行ってくるね☆」みたいな、軽いノリで。

…。

「あ、あの…」

「学院長先生…」

二人の憐れなルームメイト達は、俺達の顔色を伺っていた。

それもそうだろう。

俺達は、多分ナジュを除いて、皆顔面蒼白だったろうから。

教師が揃って顔面蒼白になっていたら、誰でも心配する。

「う、うん…。だ、大丈夫だよ」

シルナは生徒を心配させまいと、何とか笑顔を作って答えた。

「すぐ帰ってくるだろう、いや、すぐ連れ戻すから。こっちは心配しないで。さぁ、授業の準備に戻りなさい」

「は、はい…」

「ほ、本当に大丈夫ですか…?」

「うん、大丈夫大丈夫。あとは私達に任せて。わざわざ伝えに来てくれてありがとうねー」

ちょっと、シルナの声が上ずっていた。

が、二人のルームメイト達には、それで納得してもらうしかなかった。

二人は、ちょっと首を傾げながら、学院長室を出ていった。