その日の夜。

僕と『八千歳』は、黒装束に着替え。

いつものように、イーニシュフェルト魔導学院の学生寮を抜け出した。

ちゃんと置き手紙も残してきた。

これで心配ない。

『八千歳』と二人で向かうのは、例の、『サンクチュアリ』という組織のビル。

その周囲には、聖魔騎士団の隊員らしき人々が、警戒網を敷いていたが。

「さーて、入ろっかー」

「うん」

監視の目を掻い潜り、かつ。

「えっ?」

途中、目が合った隊員には。

爪の隙間に隠していた針を、首元にプツッ、と刺した。

途端、針を刺された隊員は、ドサッと倒れた。

ちょっとした睡眠薬みたいなものなので、運が良ければ数時間で目覚めるだろう。

…え?運が悪かったらどうなるのかって?

大丈夫だよ。長くても、丸一日寝てれば起きるから。

いずれにしても無害なので、問題ない。

そんな訳で。

あっという間に、例の魔法陣の前に到着。

「さて、この魔法陣に入れば良いんだっけ?」

「うん」

学院長達が言ってたからね。

魔導師であれば、この魔法陣に入れば、異次元に転移させられるって。

…唯一、心配なことがあるとしたら…。

「…ねぇ、『八千歳』」

「何?」

「僕って、魔導師にカウントされると思う?」

「…」

え、何で無言になるの。

余計不安になってくるから、やめて。

「そーだなぁ…。もしかしたら、『八千代』は無理かもね〜」

やっぱり?

「発動条件は『魔導師であること』だもんね…。僕は魔導師のうちに入るのかな…」

『八千歳』は、色んな魔法が使えるから…言うまでもなく、魔法陣の発動条件を満たしているだろうけど。

力魔法しか使えない僕は、魔導師としてカウントしてもらえるのだろうか?

「え?力魔法しか使えない?それは魔導師として認められません」って、非魔導師認定されちゃったら。

文字通り、門前払いを食らうことになる。

折角ここまで来たのに…。

「まー、力魔法だけとはいえ、一応魔法は使えるんだし…。大丈夫なんじゃないの?」

「そうかなぁ…」

「ま、入ってみれば分かるよ」

うん。

最悪、僕だけ置いてきぼりの可能性もあるよね、それって。

『八千歳』だけ行かせて、僕だけ取り残されるっていうのは…。

それは…嫌だなぁ。