神殺しのクロノスタシスⅣ

するとベリクリーデは、きょとんとした顔をして。

「落書きは、ただの落書きだもん。別に危なくないよ」

「いや、でも…四人も消えたんだぞ」

吐月とキュレム、ルイーシュ、無闇の四人が。

そして、未だに音沙汰がない。

間違いなく、あの魔法陣で強制転移させられたのだ。

そんな魔法陣が危険じゃないだと?

「うん…だからあの落書きにも、近寄らない方が良いみたいだね」

「…」

「でも、落書き自体はそんなに…。それよりあの奥にあった石。あれには近寄っちゃいけないよ」

…あれ、石なのか?

綺麗な水晶玉に見えたけど…。

「危険なのは、魔法陣じゃなくて水晶玉…。お前はそう言うんだな?」

「うん」

「根拠は?」

「うーん…。…何となく?」

お前に、理論的な説明を求めた俺が馬鹿だった。

とにかく、本能的に「あれは近寄ったら不味い」と思っただけなんだな。

動物が火を見たら近寄らないのと同じか。

ベリクリーデも野生(?)の本能で、あれヤバい、と思っただけで。

何がどうヤバいのか、何でヤバいのかまでは分からない。

まぁ、当たり前か。

中に神が宿っているとはいえ…ベリクリーデ本人は…まださして年端も行かない、若い女性に過ぎない。

知識として、あの水晶玉を知っている訳ではない。

そして。

知識として、水晶の正体を知っているのは…。

「…」

「…ジュリス、どうかした?」

「いや…」

…正直、気は進まない。

あの場で沈黙を貫いたからには、それなりの理由があるんだろう。

長生きしてりゃ、隠したいことも、それこそ墓場まで持っていきたいことも、自ずと増えてくる。

シルナ・エインリーにとってあの水晶玉は、そういう存在なんだろう。

だから、彼が話したくないことを、無理に聞き出したくはない。

それは彼のカサブタを無理矢理剥がし、傷口を抉る行為に他ならない。

そう思ったから俺は、昨日あの場で、シルナ・エインリーを詰問したりしなかった。

…だが。

ここまで何の情報もなくて、手がかりもなくて…。

消えた四人の行方も、ようとして知れず。

このまま手をこまねいていて、第二、第三の犠牲が出ないとも限らない。

現状を打破しなければ、『サンクチュアリ』の思うがままだ。

…その為には。

例え残酷でも…。

「…行かなきゃならないよな。やっぱり」

そしてそれが出来るのは、きっと俺だけだから。